ビューティフル・マインド
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監督 : ロン・ハワード
原作 : シルヴィア・ネイサー
脚本 : アキヴァ・ゴールドマン
音楽 : ジェームズ・ホーナー

出演 : ラッセル・クロウ(ジョン・ナッシュ) エド・ハリス(パーチャー) ジェニファー・コネリー(アリシア・ナッシュ)
    クリストファー・プラマー(ドクター・ローゼン) ポール・ベタニー(チャールズ)

(2001 米)






 実在の数学者で、ノーベル賞受賞者でもあるジョン・フォーブス・ナッシュ・ジュニアの伝記をもとに作られた映画である。
…が、これは単に偉大な数学者の努力と栄光の話ではない。
何故かというと…。

残念ながらそれに触れはじめると、どんどんネタバレになってしまうので、それはネタバレ注意報以下で…。

 映画は1947年、ナッシュのプリンストン大学大学院時代から始まり、1994年66歳でノーベル経済学賞を受賞するまでの47年間をえがいている。

ジョン・ナッシュは、いわゆる変人と言われるような、社交下手で一見ロマンチシズムの欠片もないような偏屈なタイプである。
しかしアキヴァ・ゴールドマンの脚本とラッセル・クロウの演技で、この変人天才数学者の内面世界の素晴らしさに焦点が当てられ、学問に没頭しているときの異常なまでの集中力や日常生活の中でも発揮される突飛かつ豊かな発想、そしてそれと対照的に隙だらけで孤独で焦りや挫折と戦う弱く壊れやすい部分が、私には人間としてとても魅力的に映った。
けれど、それらのギャップが、ジョン・ナッシュの魅力でもあり弱点でもあったのだろう。
大学院で知り合った唯一の親友チャールズだけが、そんな彼をいつも明るく支えてくれ、その後もピンチのたびにナッシュを救ってくれる存在だ。

 大学院の推薦でウィーラー研究所に進んだナッシュは、ある日国防総省からソ連の暗号の解読を依頼される。
彼はみごと期待以上の成果を上げ、その能力を高く評価した諜報員のパーチャーから極秘任務を任される。
一方私生活では、彼が講師をしていたMITの聴講生アリシア(ジェニファー・コネリー)と結婚、彼女はナッシュのよき理解者であり、赤ちゃんも授かって穏やかで幸せな生活…のはずだった。

そんな中で、映画中盤に今まで観てきた内容まるごと、ひっくりかえる意外な展開が待っている。
ここで観客が味わう混乱と空虚感、怖ろしさ、それが監督のねらいなのだろう。
主人公ジョン・ナッシュの感じたであろう心理を、共有することが出来るのだ。

 このような実在の人物や事件を描く映画は、往々にして本人や出来事を美化しすぎだという批判が起きる。
何もかもをリアルに描くことにも価値があるが、それは監督や脚本家の作品に込めるメッセージによって色々な形があって良いと思う。

妻と共に困難を乗り越えて偉業を成し遂げた実際のナッシュ博士は、今もプリンストン大学で研究を続けている。



==========================ここからちょっとネタバレ========================












 ジョン・ナッシュはある意味とても正直で自信家で学問的真理を追究することにはどん欲である。
それ故に生まれる現実とのギャップを埋めるために、彼には統合失調症という病気、幻覚が必要だったのかもしれない。
事実彼の作り出す幻覚は、当初彼と彼の理想の世界を守るために必要不可欠なパイプだった。
けれどいつしかその幻覚に翻弄されるようになる。

ナッシュが困難を乗り越える課程で、クリストファー・プラマー演じる精神科医ローゼンや友人たちなど、彼に手をさしのべる人々の存在、とくに妻アリシアの支えは大きい。
ナッシュが病を克服し、幻覚と共存しながら生きていく姿は、ある時は滑稽におもしろ可笑しく描かれ、またある時はその静かな強さが胸に響く。

ナッシュが数学的真理の探究に強い信念を抱いていたように、妻アリシアは人の持つ可能性、ナッシュの病を克服する力を信じ続けた。


 



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