カート・コバーン アバウト・ア・サン
Kurt Cobain About a Son
http://sidetrackfilms.com/films/cobain/(english)
http://www.kurtaboutason.com/(japanese)





監督 : AJ・シュナック
原作 : マイケル・アゼラッド
 「病んだ魂―ニルヴァーナ・ヒストリー

音楽 : スティーヴ・フィスク
    ベンジャミン・ジバード
音楽スーパーバイザー : リンダ・コーエン
ナレーション : カート・コバーン

(2006 米)

注 : 作品の構成上レビューはネタバレです


 1994年4月5日、自ら27才の人生に終止符を打ったNIRVANAのボーカル、カート・コバーン。
その前の年の終わりから1994年にかけて、ジャーナリストのマイケル・アゼラッド(Michael Azerrad)が25時間に及ぶインタビューをカートに対して行った。
マイケル・アゼラッドはその時のインタビューから『病んだ魂』( "Come As You Are: The Story of Nirvana")をまとめたが、 その時のカートとマイケルの会話を納めたテープをもとに作られたドキュメンタリーがこの作品だ。

 インタビュー音声のバックには、会話の内容に関係する音楽が場面場面で適切に選ばれ、生前カートが愛した曲が次々と流れる。
一方映像はと言うと、時系列に沿ったインタビューに合わせて、アバディーン、オリンピア、シアトルを舞台に構成された、新たに撮影したらしいものが映し出されている。
おそらく、カートの生前の映像をこの作品に使うことは問題があって出来なかったのだろうけれど、最後の数分間を除いてこの映画に彼の姿が登場することはない。
映画は、やはり音声よりも映像がメインなのだから、いくらなんでもそれはかなり物足りない。
カート自身の映像が使えないのなら、いっそのこともっとずっと観念的なものにしてしまうのも手だったかも知れないが、中途半端にリアルで、それがよりいっそうチープな再現フィルムのようでしらけてしまうのだ。

だが、しかし…である。
カートの肉声というのは、それだけでもうファンにとって大変魅力的だ。
しかも、マスコミもインタビューも好まない彼が、こんなに長時間、おそらくその時点での本心を彼の言葉で正直に表現している。
時には力強く、「だから生きていかなければならないんだ。」と語り、また一方で悩み続けていた胃痛のこと、マスコミによって心底傷ついている心の内をありのままに言葉にする。
そこには映像云々はともかく、カートのことを知りたい理解したいと切望するファン達が、むさぼるように耳を傾けてしまう宝物のような情報がある。

そして最後に少しだけ映る何枚かの彼の写真。

彼が何故生き続けることをやめてしまったのか…真実は結局想像の域を出ない。
彼の言葉に込められた様々な苦しみも葛藤も、こうして今新たに受け止めることが出来るけれど、彼を愛したこれだけ多くの人々と、彼が心から愛した家族とに、カートがあまりにあっけなく別れを告げてしまったことは、やはりどうしても理解しきれない。

ついさっき、10年後の自分やNIRVANAについて生き生きと話していたカートの声、そして写真に写った彼の姿。
そこに、もう彼は今この世にいないんだという悲しい現実をあらためて感じてしまい切なくなる。
 
[movietop]
2007/8/8


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