アメリカン・ビューティー
American Beauty
http://www.uipjapan.com/americanbeauty/


監督 : サム・メンデス
脚本 : アラン・ポール
撮影 : コンラッド・L・ホール
音楽 : トーマス・ニューマン


出演 : ケビン・スペイシー(レスター)
    アネット・ベニング(キャロリン)
    ソーラ・バーチ(ジェーン)
    ウェス・ベントレー(リッキー)
    ミーナ・スバーリ(アンジェラ)
    ピーター・ギャラガー(バディ)
    クリス・クーパー(フィッツ大佐)

(1999 米)

 アカデミー賞5部門の他にも、さまざまな賞を獲得し、現代アメリカ社会における家族の問題点を描いた…と高い評価を受けた映画だが、そう思って観ると、ちょっと意外に感じる。
まず、アカデミー賞らしからぬ…というか、…これはかなり私の偏見もあるのだろうけれど、予想していたもっと壮大な、お金をかけた、豪勢な映画というイメージとは全然違っていた。
けれどテーマは壮大だ…、「美」である。
美は、日常の混沌から人を目覚めさせ、疲れた心にエネルギーを与え、見失いかけた真実に光を当てる。

主人公のレスターが目覚めるきっかけとなった美は、なんと高校生の娘の友人、アンジェラの美しさだった。
それまで、「生きながらにして死んでいた」レスターは、少しずつ変化し始める。
レスターの妄想の中のアンジェラは、いつも真っ赤なバラの花と共に現れる。
この映画で「赤」が登場するのは、この妄想のバラと、そしてレスターの妻が丹誠込めて育てている庭の赤いバラ、レスターの家の玄関の赤い扉、そして血の赤だ。
これらのモチーフが、映像にメリハリを与えながら物語は進行していく。

レスター役でアカデミー賞主演男優賞に輝くケビン・スペイシーの演技は、確かに上手い。
娘の友人を見つめる目のエロさや、情けないスケベ親父のあまりのリアルさに、嫌悪すら感じてしまうくらい上手い。
母親のキャロリン役を演じるアネット・ベニングも、これまた凄い。
娘の目で彼女を見ても、夫の目で見ても、この困った母親には全くうんざりするのだが、キャロリンの立場に立つと何故か彼女の苦しみもまたリアルに感じることが出来るのだ。

確かに、この映画を同世代の子どもを持った経験のある親の目で観ていると、実に身につまされる。
クールで批判的で鋭い、子どもの両親を見る目が、痛い。
親とはいえ、本当は自分のことすら満足に行かないのが現実。
それでも親という役割をこなそうと必死の努力をするが、いつも結果は惨敗。
仕事では挫折、そしてリストラ、子どもの心は全く読めず、夫婦の信頼関係も危うく、お互いに伴侶まで敵に回してしまう孤独。
そして昔の家族写真を、ため息と共にうらめしく眺めるばかり。

しかし、そんな一家が隣に引っ越してきたフィッツ家の息子リッキーとの出会いをきっかけにさらに変わって行き、それに伴ってそれぞれの人生も違うものになっていくのだ。
いつもビデオカメラを手に持って、興味のある対象にズームしていくリッキー。
ミステリアスで、深い洞察力を持つ彼の魅力と怖さ。

 撮影賞を獲得したコンラッド・L・ホールが、「美」をテーマにしたこの映画の内容に負けない、美しい映像美を見せてくれる。
上空から徐々に近づいていく町並みの美しさ、レスターの妄想の中の美、そしてリッキーのビデオカメラを通した彼の主観的な目で見た美。
そして、それと対比して描かれる、二つの家庭の色あせた現実。

多くの人が思い当たるような、けれど目を背けつつも決して消し去ることが出来ない心の中の胸騒ぎのようなもの…、監督は、それらを改めて目の前に突きつける。
そしてそれらと向かい合う勇気を持った主人公を通して、本当に大切なものは何かを探っていく。
痛みと不快感と爽快感が同時に心の中に残る映画だった。
(2005/6/22)
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