BABEL http://babel.gyao.jp 監督 : アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ 脚本 : ギジェルモ・アリアガ 音楽 : グスターボ・サンタオラヤ 出演 : ブラッド・ピット (リチャード) ケイト・ブランシェット (スーザン) ガエル・ガルシア・ベルナル (サンチャゴ) 役所広司 (ヤスジロー) 菊地凛子 (チエコ) 二階堂智 (ケンジ) アドリアナ・バラーザ (アメリア) エル・ファニング (デビー) ネイサン・ギャンブル (マイク) ブブケ・アイト・エル・カイド (ユセフ) サイード・タルカーニ (アフメッド) ムスタファ・ラシディ (アブドゥラ) アブデルカデール・バラ (ハッサン) (2007 米) アカデミー賞助演女優賞に日本人の菊地凛子がノミネートされたことでも話題になったアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督の作品である。 タイトルの「バベル」は、旧約聖書に出てくる「バベルの塔」をモチーフにしている。
かつて人間はみな同じ言葉を話していた。
ある時人間は天まで届く塔のある町を建てて有名になろうとする。 それを見た神は怒り、そして人間の言葉を混乱(バラル)させた。 世界中に多様な言葉が存在するようになったのは、バベルの塔を建てようとした人間の傲慢を、神が裁いた結果なのである。 この作品の最大のテーマは「言葉」だ。 それぞれ違う言語、聾唖という障害、もどかしく通じ合わない思い…、あるいは同じ言語を使う家族夫婦なのにそれでもすれ違い解り合えない魂。 それ故の孤独、苦しみ、悲劇。 モロッコ、アメリカ、メキシコ、日本、の4箇所4つのストーリーが、一発の銃弾からそれぞれに展開していき、ずれた時間軸で進行する。 悲劇の発端はほんの小さな過ちだ。 愚かさゆえにこの世で苦しむ孤独な魂たちは、事件に巻き込まれ、お互いを理解できない故にすれ違い、傷ついて、絶望の中でもがく。 見終わって、なにかポーンと放り出されたままのような、中途半端な印象が残る映画で、だから賛否も分かれるようだ。 以前観た同監督の「21g」(脚本も同じギジェルモ・アリアガ)を思い出してみると、この監督は『物語を語る』よりも人々の人生や日常を少し距離のあるところから突き放し気味にただ見ている…そういう視点の作品を撮るのかも知れない。 その視点を私は神のようだと思ったけれど、この作品「バベル」にも同じものが貫かれているように感じた。 私はそれが嫌いではない。 こう思え、こう感じろ、ここで泣け…という制作側の意図が透けて見えてしまうチープな作りのドラマよりも、はるかに心を動かされる。 そしてやはりこの作品でも監督は、人間の過ちや愚かさを描きながら最後には登場人物に絶望の底から一筋の光を見いださせている。 徹底してリアリティにこだわるのも、過酷な人生の現実に対比された人間の持つ強さ、底力を肯定し賛美するための布石のようなものではないかと思う。
さて、きっとこの作品を見た多くの方達が気になっているであろうあのチエコのメモの内容であるが、父親との近親姦説から刑事への告白説まで、色々な感じ方があるようだ。 |