ブロウ
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監督 テッド・デミ

出演 ジョージ・ユング : ジョニー・デップ
    マーサ : ペネロペ・クルス
    デレック : ポール・ルーベンス
    バーバラ : フランカ・ポテンテ

(2001年 米)


 2001年の映画ですが、私が今回見たDVDデラックス版のBLOWをとりあげてみました。
本編に関しては、簡単な説明にとどめますが、完全ネタバレなのでご注意ください。


 ブロウ(BLOW)とは、マリファナ、コカインなどドラッグ吸引を意味する俗語だ。
この映画は、70年代後半から80年代に、アメリカに出回ったコカインの85%を支配していた男、麻薬王ジョージ・ユングの半生である。

 このDVDには、本編の他に

1.オリジナル予告篇(2バージョン)
2.本編コメンタリー
3.ジュージ・ユングのインタビュー
4.プロダクション・ダイアリー(メイキング)
5.キャラクター・アウトテイクス劇中のキャラクターたちがユングを語るインタビュー集
6.未公開シーン

などが収められている。

2.本編コメンタリーでは、テッド・デミ監督が、映画の流れに沿って、その時々の撮影秘話を惜しげもなく公開してくれる。
30年間にわたる主人公の半生が2時間に凝縮されても、リアリティを失わない映像が出来上がった裏には、編集や撮影の手法に仕掛けがある。
ジョージの少年時代(50年代)の回想シーンでの映像・・・言われてみれば原色の色が毒々しいほど強い。これは、当時のホームビデオの鮮やかな色を再現して時代の雰囲気を出したそうだ。この他にも、60年代のシーンには、ズームしてフリーズを繰り返す撮影編集で各時代の雰囲気を出すことに成功している。そしてこの成功を支えているのが、撮影担当のエレン・クラスなのである。
また、ここに各時代の音楽が加わると、まるでタイムスリップしたかのように時代を行き来できる。
どのような曲が使われているかは、サントラの収録曲を参考に。

Can't You Hear Me Knocking - The Rolling Stones
Rumble - Link Wray
Glad And Sorry - The Faces
Strange Brew - Cream
Black Betty - Ram Jam
Blinded By The Light - Manfred Mann's Earth Band
Let's Boogaloo - Willie Rosario
Keep It Comin' Love - KC & The Sunshine Band
Yellow World - J Girls
That Smell - Lynyrd Skynyrd
All The Tired Horses - Bob Dylan
Can't You See - Marshall Tucker Band
Push & Pull - Nikka Costa

この中でも、個人的に特にグッと来たのは、"Blinded By The Light" だった。パーティーか何かのシーンで一瞬使われたのだが、不意を付かれたようにタイムスリップした。

 コメンタリーでは、"失敗したけれどそのまま使われたシーン"というのも紹介されている。
ジョージとバーバラが初めてデレックの店に入るシーンで、画面の左側のすみに、助監督が一瞬映り込んでしまっているところとか、逮捕されたジョージの所に来る弁護士(なんとこの役は監督本人がやっている)の小道具の鞄の持ち手が撮影中取れてしまい、その鞄を持って退室する時に、監督が小指を添えて苦心してごまかしきる様子など、知らなければ絶対に判らないような一瞬の失敗だ。そういう失敗にもかかわらず、それらのカットが採用された理由はひとつ。それぞれのカットでの、役者達のアドリブや演技があまりに素晴らしくてやり直しをしたくなかったからだそうだ。全編を通して、かなりアドリブが多いようで、監督が各俳優を信頼して自由な演技を尊重している様子が想像できる。
確かにジョニー・デップはじめ、存在感のあるポール・ルーベンス(デレック役)、監督が「ラン・ローラ・ラン」を観て惚れ込んだフランカ・ポテンテ(バーバラ役)など、皆がはまり役に見えるほどだ。ペネロペ・クルスは、個性的で演技も印象に残るが、感情移入できるほどの魅力が表現しきれていない気がして、私はむしろフランカ・ポテンテの方が好きである。

ところで、この本編コメンタリーには、監督だけではなく、ジョージユング本人の解説も間に挟まれている。
各シーンでえがかれている内容の、実際の出来事はどうだったのか、映画に表現されなかった真実までもが彼によって語られる。

 主人公ジョージの少年時代、父親は小さな会社を経営していたが、いずれ倒産。
母親は特にお金のことで四六時中父親と口論を繰り返し、家出を繰り返す。
こんな環境で成長したジョージは、次第に一匹狼になっていく。
成人したジョージが最初に手を染めたのはマリファナの売買である。
しかしその後、マリファナの不法所持で逮捕され、服役した刑務所での出会いから、彼は人脈を広げコカインのディーラーとなる。
そしてついには巨万の富を築きあげ、そして裏切りによってそれを一瞬にして失う。
そういう人生なのだ。

 「人生なんて山あり谷ありさ。金なんて幻だよ。大事そうに見えるだけだ。」
少年時代に聞いた父のこの言葉の真の意味を、ジョージが知るのは30年以上後だった。
それを噛みしめて、今、ジョージユングは刑務所の中にいる。
2015年までの刑だそうだ。
本編のラストで、ジョージが、成長した娘の幻覚を見るシーンがある。
美しい女性になった最愛の娘が、突然刑務所に面会に訪れ、誰もいない広い庭で二人は泣きながら抱き合う。
けれど、刑務官の呼ぶ声に我に返り、これが幻覚だと気づく次の瞬間、ジョージの呆然とした表情とともに、観る側も同じ喪失感を共有する。(このシーン、ジョニーデップの表情だけの演技は必見だ!!)
この美しいシーンをラストに使うことを、監督は映画を作る一番最初の段階ですでに決めていたのだそうだ。

「最愛の娘が、自分には会いたくないからと面会に来ない。これ以上のつらい喪失があるだろうか。」
監督はそう語る。
事実ジョージは、刑務所の中で面会予定者リストに、娘の名前を・・・来るはずがないと分かっていながら繰り返し探しているのだそうだ。

映画は、この幻覚のシーンの後、ジョージのモノローグで終わる。
「みんなが帰ったあとも俺だけ帰る家がない。」
そして、エンド・クレジット直前に、一瞬映る老けた男の顔、それがジョージ本人である。

 3.ジョージ・ユングのインタビューは、刑務所内で、デミ監督自身によって行われた。
ジョージは、この映画の制作にあたり、脚本の段階から携わり、スタッフとの話し合いを繰り返してきたようで、ジョニー・デップの印象、脚本家のニックについて、デミ監督について、この映画について、それぞれにとても高い評価をしていた。
特にジョニー・デップの演技を絶賛している。
またこの映画は自分にとって「タイムマシーン」であると、「素晴らしい贈り物だから、大切に使うよ」とも語った。
そして、自らの過去を「自己破壊衝動にとりつかれた男の行動」「自由を得るため人生を抵当に入れた」と。
「みんなが帰ったあとも俺だけ帰る家がない。」というその言葉の真意を、監督がジョージに尋ねたとき、彼はこう答える。
「ごくわずかしか、心の通じる奴や俺を理解してくれる奴はいない、俺は人とは違う生き方をしてきた。」
インタビューの後半から、二人はベンチに並んで座り、会話の形式となる。
この二人の会話から、デミ監督こそが、ジョージの数少ない理解者の一人であることを、観るものは確信する。
しかし、とても残念なことに、この後監督は急死してしまった。

けれど、デミ監督の遺作であるこの映画によって、ジョージの理解者は数え切れないくらいに増えたはずだ。
彼の罪を、許す許さないは別として。
彼のしてきたことが、良いか悪いかとは別の次元で。
 
 ジョージの持つ哀しさに、観客を共感させることが出来るか、ジョージを好きにさせることが出来るか。
彼が大悪党であるだけに、それは映画人としての挑戦だった
・・・と、監督は話す。
そのあたりの視点に、"アドルフの画集"に通じるものがあると感じた。

 この映画は、麻薬王の成功と破滅の物語として、彼らの実体や現実離れしたその世界を、テンポ良く見せてくれると同時に、夫婦、親子、家族、友人など、様々な人と人との繋がりをリアルに表現し、それらが人生にとって一体何なのかを問いかけてくる。
つまり、デミ監督が意図した通りの映画に仕上がっていると思う。

テッド・デミ監督のご冥福と、ジョージ・ユングの心の平和を、願わずにいられない。

 
2004/4/10
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