THE BRAVE 監督 : ジョニー・デップ 原作 : グレゴリー・マクドナルド 脚本 : ポール・マッカドン ジョニー・デップ D・P・デップ 音楽 : イギー・ポップ 出演 : ジョニー・デップ(ラファエル) マーロン・ブランド(マッカーシー) エルピディア・カリーロ(リタ) マーシャル・ベル(ラリー) フレデリック・フォレスト(ルー) クラレンス・ウィリアムズ三世(ストラットン神父) マックス・パーリック(ルー・ジュニア) フロイド・レッド・クロウ・ウェスターマン(パパ) イギー・ポップ (1997 アメリカ) この映画は、俳優ジョニー・デップの初監督作品だ。
ネットでタイトルを検索しても、出てくるのは似た名前の「ブレイブ・ストーリー」ばかり。 オフィシャルサイトも見つからない。 なぜこんなに良い映画が…と不思議に思うのだが、それもこれもアメリカで上映されなかったからだろう。 1997カンヌ国際映画祭で高い評価を得たにもかかわらずアメリカの批評家達はこの映画に否定的だったそうだ。 そのため、監督ジョニー・デップはアメリカでの公開を拒否、日本では1998年3月に公開されたらしい。 この作品の脚本に名前を連ねているD.P.デップは、ジョニー・デップのお兄さんだそうで、他にもイギー・ポップが音楽を担当し映画の中にもカメオ出演するなど、ジョニー・デップが自ら信頼できるスタッフと共に本当に撮りたい映画、本当に演じたい役に強い思い入れを持って挑んだのだろうと推測できる。 イギー・ポップは、この作品同様にネイティヴ・アメリカンを題材にしたジョニー・デップの主演作「デッドマン」にもカメオ出演しアドリブの演技を見せるなど、プライベートでも仲の良い友人だそうだ。 作品について言えば、これはとにかく後味が悪い。 後味の悪い映画と言えば、私の中ではまず「ダンサー・イン・ザ・ダーク」だが、どちらの作品も「死」の扱いが容赦ないところが耐え難い。 悲しい…とにかく悲しい作品なのだが、見ている間は一滴の涙も出ない。 そのかわりラストシーンを見た直後から、どうにもならないやりきれなさを引きずってしまう映画だ。 そして、それはアメリカにおけるネイティヴ・アメリカンの貧困に端を発していて、このあまりに直視しがたいストーリーを一部のアメリカ人は映画を否定することによって拒否せざるを得なかったのではないかとも思えてしまう。 因みに、ジョニー・デップ自身ネィティヴアメリカンの血を引いており、彼のこの映画に対する妥協の無さや気迫には、彼の根底に流れる力強い何かを感じさせる。 そうした貧困故に、ネィティヴアメリカンである主人公ラファエルは家族のため自らの命を売る。 それも、最も屈辱的で恐ろしい死…スナッフ・フィルムを撮るために拷問の上殺されるという形で。 スナッフ・ムービーとは娯楽目的で制作される、実際の殺人の様子を収めた映像のことだ。 殺人者などが記録した映像や事故死などをたまたま撮影したものなどはこれにあたらず、あくまでも殺人を撮影するための殺人なのだから、もちろんこのような映像が表面的に流通するはずもない。 この映画にあるようなことをアメリカの現状、またアメリカにおけるネィティヴアメリカンの現状と重ね合わせて考えるのはあまりにつらい。 ジョニー・デップという名優のルーツやアイデンティティに触れることが出来る貴重な作品…、ファンにとっては特に是非観ておきたい映画だ。 (2007/5/23) ラストに至るまで、どこかで話の展開が変わらないだろうか、これをきっかけに人生観が変わったラファエルが家族と共にまた新しい一歩を踏み出すというラストにならないだろうか…、と淡い期待を抱きつつ見ていた。 実に重いラストであるが、しかしこれこそが現実というものなのだろう。 口当たりの良い観易い作品にするために真実を曲げることをしない…ジョニー・デップにはそんな強い思いがあったのだろうか。 だとしたら、アメリカにおけるこの作品の酷評にどれほど彼が失望したか、その悔しさを察する事が出来るような気がする。 そして彼の味わったその理不尽こそが、この映画で描かれる理不尽と重なって見えてしまう。 しかし、そんなシニカルな視点だけではなく、ラファエルが死の契約をしてから一週間…その短い時間をどんなふうに大切に生きたのか…、その事もしっかりと心にとどめておきたいと思う。 |