バッファロー'66
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監督/脚本/音楽 : ヴィンセント・ギャロ 
出演 : ヴィンセント・ギャロ    クリスティーナ・リッチ
   アンジェリカ・ヒューストン   ベン・ギャザラ     ミッキー・ローク
   ケヴィン・コリガン   ジャン=マイケル・ヴィンセント  
(1988年 米)

 タイトルになっている、1966年は主人公ビリー・ブラウン(ヴィンセント・ギャロ)が、ニューヨーク州バッファローで生まれた年でもあり、地元のアメフトチーム、「バッファロー」が最後に優勝した年でもある。
 映画は、ビリーが5年ぶりに刑務所から娑婆へ出てくるところから始まる。
顔色が悪く、落ち着きのない、さえない男。(とりあえず、この場面で彼の落ち着きがないのはトイレを我慢しているせいもあり)

 5年前、ビリーは賭けスーパーボールで敗け、とうてい払えない額の借金をつくってしまった。
その借金をチャラにするのと交換条件で、身代わり服役したのだ。
 そんないきさつで刑務所に入ったビリーだか、なぜか執拗にそのことを両親に隠し通そうとする。(そのわけは後で判るのだが。)
そこで、唯一面会に来てくれた友人のグーン(ケヴィン・コリガン)に協力を頼み、『結婚して政府の仕事で遠くに行っている』という嘘をつきとおした。

 出所したビリーは、まずその両親の元に帰ることにする。
まずは母親のもとへ電話をするのだが、その際、成り行きで妻を連れて帰るという約束までしてしまった。
電話を切った直後、彼はたまたま公衆電話のそばにいた通りすがりの女の子、レイラ(クリスティーナ・リッチ)を誘拐した。
脅迫して、妻役を演じさせることにしたのだ。(そういう行き当たりばったりの男なのである)

 レイラは始め当然抵抗するのだが、徐々にビリーの計画に協力的になっていく。
このあたりの2人のやりとりと気持ちの変化が、とても可笑しく、センス良く、丁寧に描かれている。
誘拐したのはビリーで、確かにレイラを脅迫したり、怒鳴ったりするのだが、明らかにレイラが余裕で主導権を握っている。
ビリーの、どこか抜けていて悪人とはほど遠い滑稽さと、憎めないチャーミングなキャラクターに、見ている方もぐんぐん引き込まれていく。

 ビリーの両親の家で、レイラは「ビリーを心から愛し、尊敬しているやさしい妻」を一生懸命演じる。
この家庭、この両親とビリーの関係は普通じゃない。
親子のやりとりは、まったくかみあわず、滑稽で、不安定で、そしてかなり切ない。
幼い頃から両親を愛し、なんとか彼らに認められようと必死で生きてきたビリーが、その甲斐もなく、まったく父母に理解されずに育ってきたことが、見ている側にだんだんと判ってくるからだ。
そして、その家庭環境、親子関係が、ビリーの人生に根本的な苦痛を与え続けている事も。
 彼は両親に認められようと刑務所での5年間嘘をつきとおし、その後は誘拐までしているのだ。
手段はともかく、彼なりに必死で愛されたいともがいているのだ。
それなのに、親子はまったく心が通じ合わないのである。
何度もビリーは両親に苛立ち、我慢できずにキレてしまう。
しかも皮肉な事に、そのたびにまた親子の距離はさらに離れていくのだ。
怒っているんじゃない、怒鳴っているけど、悲鳴を上げているんだ・・・ってことが、こんな親子関係を体験した人には辛すぎるほどわかるだろう。
 しかしこの場面では、レイラの天使のように可愛い存在が唯一の救いとなる。
誘拐されて、無理矢理その場にいるはずのレイラが、爆発寸前の親子関係に何か暖かいものを流し込んでいるのだ。
レイラの持っている、ビリーの家庭には無かった何か。
 
 その後、両親の家をあとにしたビリーとレイラは、もはや2人でいる理由は何もないのだが、なんとなく離れがたい。
ビリーが昔常連だったボーリング場へ行き、それからデニーズに行き、そうこうするうちに、レイラはビリーの過去を知り、ビリーの心の傷を共有していく。
そしてどんどんビリーに惹かれていくのだが。

 寒々としたバッファローの夜。
冷えた体を温めようと2人はモーテルに行く。
 ビリーの頑なな心と、ぽっちゃりしたキュートなレイラの暖かさ。それを象徴するようなこの設定。
ここで少しずつ時間をかけながら、2人の心は接近し、ビリーの冷え切った心は解きほぐされていく。
 そのあまりの不器用さは、じれったいほどだけど、可愛い・・・・。

 さてさて、もう一つ特筆すべきはこの映画のサントラです。
メロトロンマニアで、しかもプログレマニアのヴィンセント・ギャロ自身が音楽を担当しています。
70年代プログレファンにはたまりません。
ボーリング場では、場面が暗転し、レーンの前でレイラがタップを踊ります。バックには意外にもキングクリムゾンの「ムーンチャイルド」が流れ、ゆっくりとしたいい感じのタップを踏みます。
ビリーが復讐のためスコットのいるバーに乗り込むシーンには、イエスの「ハートオブサンライズ」が。このミスマッチがなんともイイです。。
そして最後は、イエスの「スイートネス」。ジョン・アンダーソンの歌声でエンドロールです!!!


[movie top]

======================ここからネタバレ注意========================











 ビリーがスコットを撃ったシーンでは、もう絶望的だったけど、ハッピー・エンドでホントに良かった。
この可愛いカップルに、幸せになってほしいなぁ・・・・と、映画である事を忘れて本気で思ってしまいました。

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