コーラス
Les Choristes
http://www.herald.co.jp/official/chorus/index.shtml
監督・脚本・音楽 : クリストフ・バラティエ
製作 : ジャック・ペラン
音楽 : ブリュノ・クーレ
合唱 : サン・マルク少年少女合唱団
出演 : ジャン=バティスト・モニエ(ピエール・モランジュ/少年時代)   
         ジャック・ペラン(ピエール・モランジュ)
     ジェラール・ジュニョ(クレマン・マチュー/舎監・音楽教師)  
         フランソワ・ベルレアン(ラシャン/校長先生)
    マリー・ビュネル(ヴィオレット・モランジュ/ピエールの母)  
        カド・メラッド(シャベール/体育教師)
    マクサンス・ペラン(ペピノ)
(2004年 仏)


 コンサートの直前、静かに精神統一をする指揮者ピエール・モランジュのもとに、突如母親の死の知らせが入る。
故郷に戻り葬儀を終えた彼のもとに訪ねてきたのは幼い頃同じ寄宿学校で寝食を共にしたペピノだった。
ペピノが差し出したのは一冊の日記。
それは、彼らの人生を変えた音楽教師クレマン・マチューによって書かれたものだ。
懐かしそうにその日記に見入るピエールの姿と共に、物語は1949年に遡る。

問題児ばかりを集めた学校「池の底」に赴任して来るクレマン・マチューの姿。
彼がそこで一番最初に出会った生徒、それがペピノだ。
ひときわ小柄なペピノは、校門の隅に隠れるようにして「土曜日」を待っていた。
土曜日には、父が迎えに来る…とマチュー話すペピノだが、彼は両親の死を受け入れられずに、こうしていつもここで父を待っているのだった。

この学校には、ペピノのような寂しさを秘めた子どもたちがいた。
それは悪戯や問題行動となって表れ、それを押さえつける為に校長は体罰を用いていた。
「やられたらやり返せ」それがここの掟なのだ。
この乱暴な子どもたちを、どうやってまとめていくのか。
赴任したその日から、子どもたちはマチューの容姿をバカにする暴言を吐き、勝手に部屋から私物を盗み、反抗する。
決して熱血先生ではないマチューのあまり冴えないその風貌は、頼りなくて、一体どうなることやらと不安になる。
しかしマチューは、そんな環境の中で静かに彼の信念を貫き、着実に生徒の心をつかんでいくのだ。
決して体罰を用いず、彼らの言葉に耳を傾け、そして歌うことを通して、彼らの自信を取り戻させ、殺伐とした毎日に少しずつ輝きをもたらす。
とりたてて気の利いた台詞を言うわけでも無いし大袈裟に子どもと抱き合うようなシーンもなければ過剰な涙もない。

 さて、冒頭で登場した指揮者ピエール・モランジュは、当時「池の底」で、一二を争う問題児だった。
マチューの作った合唱団に、当初罰則の清掃の為参加できなかったピエールは、ある日教室で一人隠れるようにして歌っていた。
透き通るようなその声を初めて耳にしたマチューは、ピエールの類い希な才能を確信し、それを伸ばす事を考えはじめ、そして彼の母親に働きかけるようになる。
何故ならそれはマチューにとっても、挫折ばかりだった今までの人生にもたらされた新たな輝きだったからだろう。

 ピエール役のジャン=バティスト・モニエは、実際にサン・マルク少年少女合唱団のソリストでもある。
本当に息を呑む美声だ。
そして歌っている彼の綺麗な目は、映画を見終えてからもはっきりと思い出されるほどに力強く、何かを訴えかけるかのような一途な眼差しがとても印象的だ。

 製作を担当し、指揮者となったピエールをも演じているジャック・ペランと子どもの頃のペピノは親子だそうだ。
そして監督のクリストフ・ブラティエもまた、ペランの甥である。
また、オフィシャルサイトによれば、「池の底」に預けられた少年の一人モンダンの役に選ばれたのは、実際に青少年更生施設に入っている少年だそうである。
『担当判事の猛烈な反対を監督自身が熱意ある説得を繰り返すことにより、やっと許可が下り出演が実現した。この少年は撮影中、問題を起こさないばかりか他の子供たちを常に優しく気遣っていたという。』
…これらのエピソードも、考え併せて見ると、さらに映画を楽しめると思う。

(2005/4/13)


========================ここからネタバレ============================
















 今まで悪事に向けられていた子供たちのエネルギーは合唱に向けられ、彼らはみるみる上達し美しいハーモニーを作り出せるまでなるのですが、その間もマチューとピエールの間にある心の隔たりは完全には消えていませんでした。
ある日ピエールは、母親とマチューの親密さに嫉妬し、母と親しげに話すマチューめがけて窓からインクを落とすという悪戯をします。
その罰としてマチューは、ピエールから歌うことを取り上げるという荒療治を試みるのです。
そうしてむかえた、来賓を招いての初めての合唱団発表の日。
歌う子どもたちから少し離れた場所でうなだれているピエールに、マチューは突如としてソロを歌うようにと合図します。
ピエールの瞳はみるみる輝き、そして生き生きと歌い始めます。
真剣な表情で見つめ合う、指揮者とソリストの間に流れる緊張感、音楽を愛する強い思いが、透き通った歌声とともに人々を魅了する、この映画のクライマックスシーンです。

それと、これは蛇足なのだけどインクを落としたピエールの悪戯にマチューが選んだ荒療治と、歌うことを許可した場面での指揮をしながらの心の声がどうしてもしっくり来ませんでした。
文化の違い感じ方の違い翻訳の微妙な表現の違い…などあるのかもしれません。
残念なことにフランス語ちんぷんかんぷんで解りませんが、ここだけ、ちょっと違和感が残りました。

 さて、何故ペピノがマチューの日記を持っていたのか…。
それは、映画のラストシーンで、なーるほどと解ることになっているのですね。

最後まで、大仰なところのない、押さえた優しさが漂う素敵なお話でした。


inserted by FC2 system