監督 : テイラー・ハックフォード 原作 : スティーヴン・キング 出演 : キャシー・ベイツ(ドロレス) ジェニファー・ジェイソン・リー(セリーナ) ジュディ・パーフィット(ヴェラ) クリストファー・プラマー(ジョン・マッケイ警部) (1995 米) スティーヴン・キングのベストセラー「ドロレス・クレイボーン」を映画化したもので、同じくキング原作の映画「ミザリー」で主演したキャシー・ベイツが再び主人公ドロレス・クレイボーンを演じている。
ニューヨークでジャーナリストとして忙しい毎日を送るセリーナのところに、ある日匿名のFAXが入る。 「これはあなたのお母さんでは?」というメッセージと共に、リトル・トール・アイランドというとても小さな島で起きた死亡事件と殺人容疑で拘留されたメイドのドロレスの記事。 容疑者ドロレスは確かにセレナの母親で、死んだヴェラはドロレスが長年メイドとして仕えた島一番の大富豪だった。 久しぶりに故郷に帰ったセレナは、その事件をきっかけに徐々に自分の失われていた記憶を取り戻していく。 スティーヴン・キングの作品はとにかく面白いが、それはサスペンスとしての巧妙さだけではなく、背後にいつも深い深い人間ドラマがあるからだ。 この映画で、死んだ父親を媒介にして展開される母と娘のドラマもまた悲しくて切ない。 我が事のようにキャシー・ベイツ演じるドロレスに同化してしまった私は、久しぶりに会ったのにぎこちない母娘の姿が痛々しくてたまらなかった。 娘のセリーナはワーカホリックで情緒不安定、薬を常用し、それを心配する母に対してまで苛立ち反発する。 事件を担当するマッケイ警部は、20年前に井戸に落ちて死んだドロレスの夫の死因が、実はドロレスによる殺人ではないかと疑いつづけている執念深い男だ。 セリーナもまた、愛する父を母親が殺害したのではないかという疑いを払拭できないまま苦しんで生きてきた。 母と娘の、愛憎入り交じった関係は、この父の死に端を発しているのだ。 それでも母を助けようとする娘、けれど逆に母は無罪を勝ち取ることには興味がない。 殺人犯になることも、服役することもいとわない。 真実がどうであるか、人がどう思うかも、…もはやどうでも良い。 「セリーナがどう思うか」それだけが自分にとって問題なのだと話すドロレス。 その言葉は、真実が徐々に明かされていくに従って深い意味を持ち始める。 謎が解けてみれば、ドロレスの人生は、セリーナの幸せのためにあったようなものだった。 そのためだけに、生きてきたようなドロレスの半生も、当初記憶を封印したままのセリーナにとっては、理解ができないものだったのだ。 しかしセリーナの記憶は、事件の解明と共に少しずつよみがえり始める。 20年前の父親の死と今回のヴェラの死、二つの事件を通して、あまりにドラマテックで悲しいドロレスの人生が浮かび上がる。 同時にセリーナの失った残酷な記憶が甦るが、やがてそれは彼女の苦しみを癒していくことになる。 この二つの事件の真実とはなんだったのか。 母と娘の幸せの行方は…。 (2004/10/8)
[movie top] ==========================ちょっとネタバレ========================
ラストシーンでフェリーの上から地味に片手を上げて去っていくセリーナに、返したドロレスの投げキスは、彼女の人生と娘への愛情をすべて凝縮した、本当に本当に素敵なドロレスらしいさよならだった。 キャシー・ベイツ、かっこいい。 |