愛の神、エロス
Eros
http://www.ainokami-eros.com/intro.html
タイトル絵画:ロレンツォ・マットッティ
タイトル音楽:カエターノ・ヴェローゾ

(2004年 仏・伊・ルクセンブルグ・米・中国)

 91歳になるという巨匠ミケランジェロ・アントニオーニが、若手二人の監督を指名して作った三人の監督によるコラボ作品。
テーマは"eros"。
一応R-15指定にはなっているが、それほど過激なシーンは無い。
人間の裸体自体がエロティックなものならば、確かにアントニオー二監督の3話目などは充分過激だけれど、少なくともこの映画での試みは、そういうことでは無いのである。
では"eros"とは何なのだろう…と、それぞれの監督が全く別の切り口からこのテーマに果敢に挑んで斬新な試みをしている。
…しているのだが、どうも観念的になりすぎて暴走気味のような気もするのだ。
正直、見終えて私はポカーンとしてしまったのだけど、観客の目を意識して作られた娯楽性の高い映画を期待しない方がよいのだろう。
各監督の意気込みやチャレンジを受け止める気持ちで観れば、それなりに深く楽しむことは出来ると思う。


第1話 若き仕立屋の恋(原題 : The Hands)
製作・脚本・監督 : ウォン・カーウァイ(香港)
出演 : コン・リー(ホア) チャン・チェン(仕立屋チャン)

高級娼婦ホアと、彼女の専属の仕立屋チャンの恋の話。
優雅な生活を送るホアのもとに、仕立屋見習いだったチャンが初めて訪れた日に起きた出来事。
その記憶と感触を胸に刻んで、チャンはそれからずっとホアのドレスを作り続ける。
原題の通り、「手」をモチーフに描いたウォン・カーウァイの試みは、コン・リーの名演技でエロチシズムと純愛の両方を見事に表現していた。
三作品の中でも、このウォン・カーウァイのストーリーが一番説得力があるように思うのは、同じ東洋的な感覚だからだろうか。


第2話 ペンローズの悩み(原題 : Equiblium)
監督・脚本・撮影 : スティーヴン・ソダーバーグ(米)
出演 : アラン・アーキン(精神科医パール)  ロバート・ダウニーJr.(ニック・ペンローズ) エル・キーツ(夢の中の美女)

ニックは数日前から変な夢を見るようになって悩んでいた。
その夢の謎を解くため、彼は精神分析医パールの診察を受ける。
カウンセリングが始まり、徐々に解明していく夢の答えは…。
モノクロのオシャレな画面と会話の中に鋭いユーモアを交えて、夢をテーマに切り込んでいくソダーバーグ監督。
だが、解説が無ければ理解できないような部分もあり、見る前に予習が必要かもしれない。


第3話 危険な道筋(原題 : The Dangerous Thread Of Things)
監督・原作 : ミケランジェロ・アントニオーニ(伊)
脚本 : トニーノ・グエッラ
出演 : クリストファー・ブッフホルツ(クリストファー) レジーナ・ネムニ(クロエ)  ルイザ・ラニエリ(リンダ

夏のトスカーナ、避暑に来ていた中年夫婦クリストファーとクロエの関係は行き詰まり冷え切っていた。
そこに登場する若くセクシーな女性リンダ。
クリストファーは海辺に住むリンダの家を訪れる。
彼はリンダの誘惑に乗って…。
イタリアのベテラン監督らしい雰囲気が漂う作品。
神話を意識した作品なのだろう、リンダは神話の中のエロスそのものだろうか。
美しい自然と人間の肉体とをのびのびと使って、監督の持つエロスのイメージを表現している。
しかし、これもまた少々難解。
出来事やディテールの中から監督の意図を汲むのがちょっと難しい。


 以上三つの各作品の合間には、ロレンツォ・マットッティの絵が映し出され、加えてそのバックに流れる音楽が、個性豊かな監督達の作品を幻想的な雰囲気に包みながら繋いでいく。
もうこれは、思考することをやめて理屈をかなぐり捨て、感覚をとぎすまして本能で味わう映画なのかもしれない。
  
"eros"は、神話の通り様々に形を変える。
歓び、悲しみ、嫉妬、困惑、怒り、あらゆる感情を産み出し、時に滑稽で、時に崇高で、時にピュアで。
そして自然そのもの、生命そのものでもあるということを、あらためて思い出させてくれるだろう。

(2005/4/24)

===================ここからネタバレ====================









 理解不可能な部分がどうしても残ったままで、なんとも気持ちが悪いです。
2作目"ペンローズの悩み"で、意味不明な、落ち着きのない精神分析医の行動は、患者のことよりも窓の外にいる誰かとのジェスチャーによるコミュニケーションに夢中になっているからだそうだけど、何故そういう設定にしたのだろう。
そして、ある日突然カツラをかぶって現れたという職場の同僚は、結局ドクター・パールと同一人物??
エンドロールのキャストのところで、アラン・アーキンの二役になっていたように思うのですが…。

3作目"危険な道筋"は、全体的にうっすらと意味不明です。
それぞれの場面での出来事に、何か意味を持たせようとしながら見る事自体が、そもそも違うんでしょうか。
この映画を見た方、見る方は少ないと思いますが、もしもご覧になった方がいたら是非ご感想を聞かせてください。



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