エターナル・サンシャイン
Etermal Sunshine of the Spotless Mind
http://www.eternalsunshine.jp/
監督 : ミシェル・ゴンドリー
脚本 : チャーリー・カウフマン
撮影 : エレン・クラス 
美術 : ダン・リー 
音楽: ジョン・ブライオン 
出演: ジム・キャリー(ジョエル・バリッシュ)
ケイト・ウィンスレット(クレメンタイン・クルシェンスキー)
キルステン・ダンスト(メアリー)
マーク・ラファロ(スタン)
イライジャ・ウッド(パトリック)
トム・ウィルキンソン(Dr.ハワード・ミュージワック)
(2004年 米)

 「恋の痛みを知るすべての人へ 」というキャッチコピー通り、今大切な人がそばにいる人にも、思い出すと胸が痛む思い出を持っている人にも、色々と考えさせられる映画だ。
最近喧嘩ばかりしている、気持ちが通じ合わない、別れが頭の中をよぎる…そんな状態にいる恋人が、ある日突然、何の前触れもなくあなたに関する記憶をすべて抹消してしまったとしたら?
この映画の中では、これが現実に起きてしまうのだ。
ラクーナ社のDr.ハワードは、わずか一夜の睡眠の間に、ある特定した人とそれにまつわる記憶のみを頭の中から消去してくれるのだ。

 映画は、朝自分の部屋で目覚めたジョエルが仕事に向かうシーンから始まる。
けれど彼はその日、衝動的に仕事をさぼり、一人海へ行く。
そこで知り合った青い髪の女性クレメンタイン。
彼らは急速に親しくなり、デートをするようになる。
幸せそうな出来たてのカップル。

ところがある日、クレメンタインの家の前で、車を停めて彼女を待っていたジョエルに、せっぱ詰まった様子で『大丈夫か?』と訪ねる若い男。
いったい何のことだか解らないジョエル。
見ているものも、ここで何か得体の知れない嫌な予感に包まれる。

ここから、ストーリーは過去へと逆に溯っていくのだ。
『クレメンタインはジョエルの記憶をすべて消し去りました』というラクーナ社からの郵便物。
彼のことを全く覚えていず、ジョエルの目前で新しい若い恋人といちゃついているクレメンタインの姿。
その現実に耐えられなくなったジョエルは、自分の中のクレメンタインの記憶を抹消してしまうことを決意し、Dr.ハワードを訪ねる。

恋が終わりかける時の悲しい出来事の数々、あるいはすでに失ってしまった恋の喪失感をどうにも出来ない苦しさに、いっそ何もかも忘れてしまいたいと思ったことが有る人は多いだろう。
でもそれは、大切な人の、大切だった人の、思い出すべてを楽しかったことも含めて忘れてしまうことであり、その存在自体をも頭の中から消し去ってしまうという、本当の意味での喪失なのだ。

 この映画の展開は、短期記憶障害を持つ男の話『メメント』を思い出させる。
10分しか記憶が持たない主人公の頭の中をリアルに再現するため、彼の記憶を10分ずつ細切れにして現在から過去へと遡る手法は、時系列を把握することが困難で混乱の中に飲み込まれそうになる映画だ。
しかし、まさしくそれが主人公の日常的につきまとう混乱と孤独と恐怖の疑似体験になるという、とても面白い映画だった。
『メメント』が記憶の怖ろしさと孤独を浮き彫りにし、果てしない絶望の中を彷徨う主人公を描いていたのに対し、この「エターナル…」は人間の記憶の素晴らしさと希望を感じることが出来る。
そういう意味では対照的だ。
 
 ケイト・ウィンスレットの演じるクレメンタインは、どうも私の彼女のイメージとずれていて最後までしっくり来なかったのだが、主演のジム・キャリーは『トゥルーマンショー』の時よりずっとかっこよくて渋い。
また、この記憶にまつわるラブストーリーは、ジョエルとクレメンタインだけのものではないことが徐々に解っていくという深さが面白い。


(2005/4/13)
====================ここらかネタバレ==================




















 誰にとっても、大切な人の記憶は、それがたとえどんなに自分を苦しめるものであっても必要なものだ…最後にラクーナ社のスタッフ、メアリーはそう決断したのだろう。
それによって、ジョエルとクレメンタインはもう一度初めからやり直す道を選ぶことが出来るのだ。
同じ二人が、同じ経過をたどり、同じ結末を再び迎えてしまう…それは大いにあり得ることだけれど、それでも彼らは再スタートに"OK!"と言い合う、あの場面に胸が締め付けられ涙があふれた。
失うことの辛さと大切な人の価値を再認識した彼らには、きっと今度こそ幸せな結末が待っている気がする。
そんな希望と共に終わる、切ないけど心が暖かくなる映画だ。





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