http://www.gaga.ne.jp/lenin/ 監督・脚本 : ウォルフガング・ベッカー
音楽 : ヤン・ティルセン 脚本 : ベルント・リヒテンベルク 出演 : ダニエル・ブリュール、 カトリン・サス、 チュルパン・ハマートヴァ (2003 独) 主人公アレックスは反社会主義のデモに参加しているところを警官に逮捕される。 たまたまその光景を目撃してしまった彼の母クリスチアーネは、突然の心臓発作で倒れ、そのまま8ヵ月間昏睡状態に陥ることとなる。 アレックスの父でもあるクリスチアーネの夫は、10年も前に西ドイツに亡命している。 その反動でクリスチアーネは社会主義に傾き、教員でもある彼女は社会主義教育にも熱心に励んで来た。 そのクリスチアーネが昏睡状態にある8ヵ月の間に、ベルリンの壁が崩壊し東ドイツはすっかり様変わりしてしまうのだ。 8ヵ月後、奇跡的に目を覚ましたクリスチアーネ。 医者は、今度心臓発作を起こしたら彼女は危ないという。 ショックを起こすようなことは禁物だ。 東ドイツにおいて優秀な社会主義者であったクリスチアーネにとって、ベルリンの壁崩壊ほどショックなことはない。 アレックスは母のために何もかもを隠し通し、統一前の東ドイツがそのまま続いているという芝居を演じきることにする。 資本主義の波が一気に流れ込んできた東ドイツの街は何もかもが変わってしまい、かつての面影といえば年老いて職を失ったクリスチアーネの旧友くらいなものだった。 窓を開ければコカコーラの大きな赤いコマーシャル、スーパーには物があふれるが統一前の慣れ親しんだ品々はもうどこにも無い。 街には車が列を作って走り、レーニンの像がヘリコプターで運ばれる。 と、こんなシリアスでもある展開の中で、母を騙しきろうとするアレックスの必死な作戦が、暖かくコミカルに描かれているところがこの映画の面白さだ。 また、彼の職場仲間でキューブリックにあこがれる映画監督志望の青年が、とても心温まる笑いを提供してくれる。 彼はアレックスと共に、クリスチアーネに見せるためのニセのニュース番組を作り続ける。変装してキャスターもリポーターもこなし、フィルムを編集し、出来上がったビデオをバイクを飛ばして届けてくれる。 その間の失敗や工夫が滑稽で、生き生きとしてアレックスを助ける彼の姿が魅力的だ。 そして、クリスチアーネのための最後の作品となった、ニセニュース番組とは…。 そこにはアレックスの理想の東ドイツが現実となって描かれていた。 祖国を愛する気持ちと、西側へのあこがれとが入り交じっていたであろう当時の東ドイツの若者の心中が見て取れる。 そこに展開されるニセではあるが理想の東ドイツ、その複雑な気持ちの奥深さは、ドイツ事情に精通していないとちょっとわかりにくい部分だけれど、ベルリンの壁崩壊という歴史的大事件の背後で、ドイツの人々一人一人に大なり小なりこんなドラマがあったのかもしれない。 そのニセ映像を見ながらテレビ画面とアレックスを交互に眺めるクリスチアーネの優しい眼差しには、息子を包み込む暖かさや彼に対する感謝の気持ち、それから成長した我が息子への眩しさのようなものがあふれていて、ほっとする。 彼女は、すでに本当のことを知っていたのだろう。 アレックスもまた、バレてると知って嘘をつき続けたのかもしれない。 そうやって、一つの時代にピリオドを打つための儀式を共にやりとげた。 母にとっても息子にとっても、それぞれに必要な嘘、必要な時間だったからではないかと思う。 |