逆噴射家族 
監督: 石井聰亙
プロデューサー: 高橋伴明
原案: 小林よしのり
脚本: 小林よしのり 神波史男 石井聰亙
音楽: 1984
出演: 小林克也 (小林勝国)  倍賞美津子 (小林冴子)
    植木等 (小林寿国) 工藤夕貴 (小林エリカ)
    有薗芳記 (小林正樹)
(日本 1984)
   

 日航機の「逆噴射 」事故があったのは、1982年2月である。
死者が多数出るような痛ましい事故だったにもかかわらず、この事故の後、「逆噴射」という言葉が流行した。
精神に異常を来していた機長が、旅客機の操縦をしていたことにぞっとしながらも、何処か滑稽な印象を残す事故だった。
その事故の2年後、この映画は作られたようだ。
非常に不謹慎ではあるのだけれど、この映画は笑える。
家庭内暴力や一家心中や精神病や、重苦しい社会問題をちりばめたストーリーなのだが、この逆噴射家族小林家の人々の抱える問題は、「逆噴射」事故のようにとても深刻で、それでいて滑稽なのだ。

小林家の家長、勝国はついにマイホームを手に入れる。
妻の冴子、大学受験を控えた息子正樹、アイドル志望の娘エリカとともに、新居に引っ越したのはよいのだが、そこへ兄夫婦と同居していた勝国の父、寿国がやってきて住みついてしまう。
どうやら兄夫婦と険悪になっている様子。

そもそも小林家の人々はかなり変わっているところがあり、勝国はそんな家族のことを心配しつつ無理して買った新居で彼らを変えていこうと決意する優しい男なのだが、父、寿国の突然の同居をきっかけにストレスが溜まっていき、どんどん狂気の世界に入り込んでいくのだ。
このきっかけが、多少デフォルメされてはいるとは言えとても身近な題材であるところが、この後の彼らの加速していく凄まじい逆噴射をますます可笑しくしている。
家長、勝国の変貌と狂気を、意外なことに小林克也が上手く演じている。

そしてクライマックスの家族同士の殺しあい、全員が狂ってしまうというめちゃくちゃな展開は、さすが小林よしのりの脚本である。
成り行き上、勝国はスーツ、エリカは水着、寿国は軍服という姿で、「おまえはきちがいだ。」「おまえこそきちがいだ。」と罵り合いながら、砕岩機、バット、包丁を片手に命がけで戦う家族と、あまりに激しい戦いのために崩壊していくマイホームの様子は壮絶で馬鹿馬鹿しく『一体何でこんな事に…』と考えるたびに、観ていて笑いがこみ上げる。
小林家の全員、それぞれの逆噴射ぷりは見事で、とくに植木等の存在感には圧倒される。
だけど、中でも、私は若き工藤夕貴にMVPをあげたいと思う。

そして収拾がつかないかに見えた殺し合いの結末は、意外な展開となってラストを迎えるのだった。


(2006/3/18)
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