メゾン・ド・ヒミコ
http://himiko-movie.com/
監督 : 犬童一心
脚本 : 渡辺あや
音楽 : 細野晴臣
出演 : オダギリジョー(春彦)
    柴咲コウ(沙織)
    田中泯(卑弥呼)
    西島秀俊(細川専務)
    歌澤寅右衛門(ルビイ)
    青山吉良(山崎)
    柳澤愼一(政木)     井上博一(高尾)     森山潤久(木嶋)
    洋ちゃん(キクエ)     村上大樹(チャービー)     高橋昌也(半田)
(2005 日本)

 何故か解らないけど、ゲイもののストーリーにはいつもとても共感できる。
まさかと思うけど私の前世がゲイだったんだろうかとか、 まあとにかくそういう理屈じゃないレベルで心が揺さぶられるのだ。
あるいは、マイノリティ好きの天の邪鬼体質に起因するのかも…。
「二十才の微熱」「ブエノスアイレス」、そしてペドロ・アルモドバル監督の作る作品などもいつもすんなり心に入ってくる。
だから、この作品もいつか機会があったら観たいと思ってはいたのだが、うっかり見逃してしまわなくて良かった…と思うような期待以上に良い映画だった。

オダギリ・ジョーの晴彦は文句なくかっこ良く撮られているし、沙織役の柴咲コウはありのままの美しさが引き出されているし、卑弥呼に至ってはその圧倒的な存在感が見事だ。

卑弥呼役の田中泯という役者さんは舞踏の世界の人だそうで、なるほど確かに立ち居振る舞いが美しく、悲哀とカリスマ性と得体の知れなさを併せ持つこのミステリアスな役柄を無言のうちに全身で表現していたのではないかと思う。

波の音が聞こえ、窓から海の見える、美しくて小さなゲイのための老人ホーム『メゾン・ド・ヒミコ』。
そこで、ガンに冒され死を待つ卑弥呼と、卑弥呼に寄り添う若い恋人晴彦、そして卑弥呼の娘の沙織…の3人が細野晴臣の綺麗な音楽を背景に繰り広げるお話だ。
それだけではなく、このかなり風変わりな老人ホームの住人達一人一人にまつわるエピソードも面白い。
傷ついた仲間をつかず離れず気遣い合う彼らの姿には、一人一人の背景にある波乱に富んだ歴史を感じさせる。
どう見ても似合わない白いドレスを着た山崎のために、皆でドレスアップして出かけるディスコのシーンがとても好きだ。
ちょっと懐かしい昭和のヒット曲に合わせレトロチックな振り付けで楽しそうに踊る彼らがコミカルで可愛らしい。
その姿を見ながら、どうしてか解らないけれど切なさで胸がいっぱいになる。
この映画には、感動が押し寄せてくるような場面は無いけれど、全体から優しく繊細な空気が流れてきて、ふとそれに包み込まれるような心地よさの中にいる感じがする。
そして気づくと、ほほえみながら暖かい涙が頬をつたっている自分に気づく…そんな作品だ。

どんな内容の映画であれ、いや、映画に限らずどんな創作物であれ、こんなふうに細やかな感受性で丁寧に作られた作品はそれだけで人を感動させる力を持っている。
作り手の作品に対する愛情、この映画で言えば、監督はじめスタッフの映像に対する、美に対する、登場人物一人一人のキャラクターに対する、そして映画そのものに対する愛情…それが持つ力だと思う。
好きなもの大切なものや人に対して、いつもこんなふうに真摯に接することが出来る自分でいたい…そういう気持ちにさせてもらった。

(2006/10/15)
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