イン・ザ・プール
監督・脚本 : 三木聡
出演 : 松尾スズキ(精神科医 伊良部一郎)
    オダギリジョー(田口哲也)
    市川実和子(岩村涼美)
    田辺誠一(大森和雄)
    MAIKO(ナースのマユミちゃん)
原作 : イン・ザ・プール
(2004 日本)

 
 病んだ現代人の心…それは深刻な問題なのだけれど、ストレスから来るその行動や症状は端から見ると滑稽で、当人がシリアスであればあるほど、余計に可笑しいということがある。
そして同時にそれは、どこか自分自身の中にもある不安であったり、「あるあるある…」という矛盾してはいるがやらずにいられない行動だったりするものだから、彼らの不安や奇行から目が離せない。

 いつものように窓を閉め、エアコンを止め、電気を消し、ガスを消し、戸締まりをして外出をする…、のだが、ふと途中で、「あれ、鍵閉めたっけ」と家に戻った経験がある人は多いと思う。
けれど、岩村涼美は、それが高じて、いつか自分が何か重大な失敗をしでかしてしまうと、不安でしかたがない。
挙げ句に、いたたまれず大切な約束もすっぽかして家に帰ってしまい、仕事に支障を来すようになる。
不安が妄想になり、いても立ってもいられなくなる彼女の様子は、とても滑稽なのだけど、彼女の行動には妙な親近感を感じてしまう。

ある日突然勃起したまま、まったく元に戻らなくなってしまった、穏和な会社員田口哲也は、いつもポケットに手を入れて歩かねばならず、傍目には怪しく映る数々の彼の仕草は、観客の爆笑をさそう。
映画の中では、泌尿器科の医者の研究材料としても、また好奇心の対象としても、もう見せ物状態で、驚く彼らの反応がまたそれぞれに面白い。
けれど、田口哲也本人にとっては、この不自由な生活を強いられることに行き詰まっている、大ピンチなのだ。

ストレス解消のために通い始めたジムのプール、管理職として気苦労の多いポストに就いた大森和雄は、仕事の緊張をほぐす手段として日々忙しい時間の合間をぬって水泳をしている。
上手く生活のバランスを取る手段を持って、得意げだった彼だが、いつしかその水泳が依存の対象になっていく。

社会生活をギリギリのところでなんとかこなしながらも、ついに困り果てて診察室のドアを叩く彼ら…、強迫神経症のルポライター、継続性勃起症の会社員、そしてプール依存症の中堅サラリーマン。
それを迎え入れる精神科医伊良部先生は、しかし、あまりにも怪しげだ。
時折垣間見える伊良部医師の私生活も、問題を多々抱えているようで、どうも頼りない。
彼の治療は、常識を遙かに越えていて、本当にこれが治療なのか、何が目的なのか…と不安になるのだが、いやもしかしたら、もの凄い名医なのかもと思えてくるのだ。

伊良部医師役の松尾スズキは、これが映画初主役だそうだが、飄々とした表情にも、突き放すようでいてどこか暖かみのあるその声やしゃべり方にも、さすがベテランの味のある演技でとても惹きつけられる。
患者役の3人も、皆それぞれのキャラクターにぴったりはまっていて、押さえ気味でありながら的を射た芝居がとても良かった。

 まったく人の悩みの多くは、深刻と滑稽と紙一重のところにあるものなんだろう。
このストレスの多い世の中で、どこかで深刻さをふと笑える余裕が持てれば、問題も一つ一つ乗り越えていけるのかもしれない。
そして、それを手助けしてくれる、こんな精神科医が身近にいてくれたらさらに人生楽しいかも…と、実に羨ましく思った。




「イン・ザ・プール」松尾スズキ独占インタビュー
(2005/6/15)
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