LAST DAYS http://www.lastdaysmovie.com/ http://www.elephant-picture.jp/lastdays/ 監督・脚本 : ガス・ヴァン・サント
音楽コンサルタント : サーストン・ムーア(ソニック・ユース) 出演 : マイケル・ピット(ブレイク) ルーカス・ハース(ルーク) アーシア・アルジェント(アーシア) キム・ゴードン(レコード会社の重役) ハーモニー・コリン(クラブの男) リッキー・ジェイ(探偵) (2005 アメリカ) カート・コバーンは90年代グランジ・ロックの代表的なバンド「ニルヴァーナ」のヴォーカリストでありフロントマンである。 彼はバンドの成功と家族を手にしながらも、やがてドラッグに溺れるようになり1994年4月5日に自ら銃で命を絶った。 ザ・フーのメンバーのピート・タウンゼントが、以前何かの番組で、カート・コバーンのアーティストとしての人生を"He burns and burns and burns…"と表現していた。 それは、はたから見れば美しい光景だけど、彼が燃やしていたのは彼自身なのだ…というような意味のことを。 カート・コバーンの人生を思うとき、私はどうしても「痛々しい」という言葉が浮かんでしまう。 ピート・タウンゼントの言葉を聞いて、その痛みはカートが自分の身体や心を燃やしていた痛みだったんだ、と思った。 けれど、彼には他にどうしようもなかった…そんな気がした。 この映画はカート・コバーンに捧げられているけれど、彼自身の実話ではなく、ブレイクというあるロックスターのストーリーということになっている。 仮に、カート・コバーン自身が自殺する直前の最後の二日間に焦点を当てても、それはまったく推測の域を出ないわけだから、もはやニルヴァーナファンにはとってカリスマ的な存在であるカートの死はガス・ヴァン・サント監督のみならず誰にも描くことなど許されないように思う。 それ故に監督はむしろブレイクという架空の人物を主人公にし、そしてこの映画をカートに捧げるという方法をとったのかもしれない。 ただ、ガス・ヴァン・サント監督は、より優しい眼差しを持ってカートの死に思いを巡らせ、よりリアルにこの映画を作ろうとしたのだろうということが映像を通して伝わってくる。 監督特有の静かな美しい絵だ。 彼の映像を見ていると、日本の…例えば能のような伝統的な美意識や精神を連想する。 静と動の対比をとてもデリケートに使い分ける感覚。 ショッキングでドラマティックな絵を次から次から映し出すタイプの映像とは、まったく対照的だ。 ブレイク役のマイケル・ピットもまた、ミュージシャンの一人として、カートのファンの一人として、この難しい役柄にとても謙虚な向き合い方をしているように感じる。 映画の後半、ブレイクがアコースティックギターを手にして歌う曲はマイケル・ピット自身の作だそうだ。 このストーリーを集約しているかのような曲。 まさにカートの魂に捧げられた曲だと思う。 Rady for a long lonely journey from death to birth. It's a long lonely journey from death to birth. ブレイクの…つまりカートの孤独は、もう誰にもどうすることも出来なかったように見えた。 すでに彼の耳には誰の言葉も届かず、人々のあらゆる言葉は彼の痛みを増幅させるただの音でしかないように見えた。 最期の彼には、もう、死以外、他に選択するものがなかった。 当然のように彼は死を選んだ。 この映画を観て、そんなふうに感じた。 ブレイクはこんな言葉を、遺書に残した。 "I lost something on the way to wherever I am today. " 2006/4/13
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