善き人のためのソナタ
DAS LEBEN DER ANDEREN
THE LIVES OF OTHERS
http://www.albatros-film.com/movie/yokihito/(日本語)
http://www.sonyclassics.com/thelivesofothers/ (英語)
監督・脚本 : フロリアン・ヘンケル・フォン
             ・ドナースマルク
音楽 : ガブリエル・ヤレド
出演 : ウルリッヒ・ミューエ
            (ヴィースラー大尉)
  マルティナ・ゲデック
     (クリスタ=マリア・ジーラント)
  セバスチャン・コッホ
        (ゲオルク・ドライマン)
  ウルリッヒ・トゥクール (ブルビッツ部長)   トマス・ティーマ   
    ハンス=ウーヴェ・バウアー   フォルカー・クライネル   マティアス・ブレンナー
(2007 ドイツ )

 2006年アカデミー賞外国語映画賞など数々の賞を受賞した作品だ。
ベルリンの壁崩壊の数年前から崩壊後にかけての東ドイツを舞台に、秘密警察(シュタージ)の一員であるヴィースラー大尉を主人公にしてえがかれる物語である。

オフィシャルサイトを見ていて印象的だったのは、東西統一後17年間も、このシュタージを題材に映画を撮ることはほぼタブー視されていたということ。
そして、監督のインビューの中で語られていた「旧東ドイツの若者に『DDR(旧東ドイツ)は独裁政治だったか?』という調査が行われたとき、ほとんどが『そんなことはない』と答えた…」というエピソードだ。
彼等若者達が監視国家の中で抑圧され侵害されてきた現実と未だ真正面から向き合う事を避け続けているのだとしたら、彼等の精神的な後遺症や傷は、直視されることなくずっとの心の奥にしまい込まれているのではないだろうか。
それは目に見える恐怖や文書として残る史実よりも、もっと恐ろしいもののように思えてならない。

 さて、ストーリーはヴィースラー大尉が反体制の疑いのある劇作家ドライマンの監視を命じられ彼の家に盗聴器を仕掛けるところから展開していく。
アパートの屋根裏部屋に機材を設置し、ヴィースラーは昼夜ドライマンとその恋人である同居人クリスタのすべてを盗聴し行動を監視し報告書にまとめていく。
ヴィースラーは残酷な尋問で成果を上げ、後任の指導にも当たるような優秀でバリバリの社会主義者なのだが、その彼がドライマンを監視することで徐々に変化していく様子がこの映画の見所の一つだ。
ヴィースラーの真面目で几帳面な性格は、職場の食堂でもあえて幹部席に座ろうとしないような態度や彼のアパートでの生活ぶりからもよく解る。
そんな彼だからこそ、ドライマンの生活に自分が全く手にしたことのない豊かな『何か』を感じたときの衝撃は大きかったのだろう。
その『何か』とは、ドライマンとクリスタの日常を、どんな場面でも彩る音楽であり文学であり、彼等の育む愛だ。
それらヴィースラーの生活には縁の無かった「形のない豊かさ」に心惹かれていく姿が、まるで新しいものに次々と目を見張る好奇心の強い子どものようで可愛らしくさえ感じる。

そのヴィースラー大尉を演じたウルリッヒ・ミューエは、東ドイツ出身で自らもシュタージに監視された過去を持つのだそうだ。
そして残念なことにその後胃ガンで他界している。けれど、このような見事な演技、作品を映画という形で残してくれたこと、感動を与えてくれたことに感謝したい。

ラストは、本当に胸がいっぱいになる名セリフ、名演技の、心に残る素晴らしいシーンだった。
[movietop]


==============ここからはネタばれです================== 



















 クリスタの死の日からラストまで、場面が急展開する中で語られていくドライマンとヴィースラーそれぞれのその後の人生が物語を締めくくります。
こんなふうに距離を保ったままの静かで熱い友情、時間をかけ心を込めた感謝と敬意の表現、それを胸一杯に受け止めたヴィースラーの最後の一言。
二人の役者の静かで力強い演技が印象的でした。
 
2008/4/1


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