マシニスト
THE MACHINIST
EL MAQUINISTA
http://www.365sleepless.com/

監督: ブラッド・アンダーソン
脚本: スコット・コーサー 
音楽: ロケ・バニョス 

出演: クリスチャン・ベイル (トレバー)
    ジェニファー・ジェイソン・リー (スティービー)
    アイタナ・サンチェス=ギヨン (マリア)
    ジョン・シャリアン (アイバン)
    マイケル・アイアンサイド (ミラー)
(2004 スペイン・アメリカ)
 「セッション9」のブラッド・アンダーソン監督が再びサイコスリラーを手がけた。
「セッション9」という作品、実は私、今ひとつピンと来なかったこともあり、しかもこの「マシニスト」は単館上映だったので劇場に足を運ぶまではいかなかったため、今回初めてwowowで観た。
ただ、以前たまたま劇場で目にした予告映像で、主人公のトレバーを演じるクリスチャン・ベイルの姿を見たとき、血の気がひくような驚きを感じたことが忘れられなかった。
脚本に「骸骨のような…」と表現されていたというこのトレバー役を演じるにあたって、クリスチャン・ベイルはまさにその通りの姿になるまで減量し、30s体重を減らした彼の姿は、ただもうそれだけで鬼気迫る緊張感と不安感を起こさせる凄さだった。

 トレバーのこの異常な姿の原因は365日に及ぶ不眠のため…という設定である。
何故彼が眠れないのか、何故これほどの痩せ方をしているのか、それが主人公にも観ている側にも解らないまま物語は進行していく。
そして、機械工である彼の職場で起きた事故、アイバンという謎の男、自宅の冷蔵庫に貼られた覚えのないポストイットのメモ、腐敗臭のする彼の部屋、血があふれ出す冷蔵庫、とにかく彼の周囲は謎だらけでこれを解決しないことにはトレバーの心は安まることがない。
観ている方は、彼の姿のあまりの痛々しさと不可解なディテールの数々を前にして、早く謎を解いて眠りたい…という彼の気持ちに同調していく。
そのあたりに、少しコミカルな空気が漂っているのは監督の意図なのだろうが、この映画全体を包んでいる不気味さや暗さと、そして相反する滑稽さがシニカルな視点を感じさせている。

この映画の緊張感は「ソウ」を思わせるし、主人公の混乱は「メメント」のようでもあり、精神を蝕まれている人間の体験を共有するという意味では「ビューティフルマインド」や「ファイトクラブ」を連想する。

ただ、どの映画よりも、「謎解き」に関する監督の用意周到さはすごい。
それは、すべてが判明した後でもう一回この映画を観てみるとよく解る。
その分すべてにおいて映画としては中途半端な気がしてしまうのだが、もしかしたらこれこそがこの監督の個性なのだろうか。
好き嫌いが分かれる作品かもしれない。


最後の方に出てくるシーンで、痩せる前のトレバーが登場するが、これはすべての撮影を終えて体重が戻った状態のクリスチャン・ベイルだそうだ。
まるで別人である。
そして、元どおりになったクリスチャン・ベイルを観てほっとした。


(2006/4/5)
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======================= ここからネタバレ注意========================













 冒頭、Who are you?というキーワードで始まるこの映画、謎が解けてからすべてを再度なぞっていくと、この言葉が大きな意味を持っていたことが解る。
おまえは誰なんだ、というこのアイバンの問いかけはトレバーが罪悪感からの逃避する始まりなのである。
そこから、次々と真実に繋がる暗号が現れる…それはルート666の中で目にすることを始め、いつも通る道にある建造物や小道具、そしてトレバーがとまどいの表情をしたときのあらゆるシーン…それらがみな鍵になっている。
そしてやはり、彼は眠っていたのだろう。
もうろうとした意識の中で見た世界、或いは夢…それはすべて罪悪感から逃避するための幻覚だった。
トレバーの精神に異常を来すまでの苦しみは、人一倍強い罪の意識故であり、つまり彼の正義感の強さと誠実さの裏返しなのだろう。
そんな几帳面な善人トレバーの性格も、随所で表現されていたことにあらためて気付く。

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