ネバーランド

監督 : マーク・フォスター
出演 : ジョニー・デップ ケイト・ウィンスレット フレディ・ハイモア ジュリー・クリスティ 
         ダスティ・ホフマン
音楽 : ヤン・AP・カチュマレク
(2004 米・英)

 

 誰もが知っている「ピーター・パン」の物語は、劇作家ジェームス・マシュー・バリによって作られ、1904年12月27日に初めてロンドンの劇場で上演されたそうである。
それからちょうど100年の歳月が流れた今年2004年、ジョニー・デップがそのバリを演じ、この物語が出来上がるまでのエピソードを元にもう一人のピーターのお話が出来上がった。

 ある日一人で出かけた公園で、バリはピーター少年(フレディ・ハイモア)と出会う。
ピーターはバリが座ったベンチの下に横たわっていた。

「すみません、僕を地下牢から出してください。」
「そこは、ベンチの下だが…?」

この運命的な出会いの日から、ピーターの一家…兄弟達と母親のシルビア(ケイト・ウィンスレット)…とバリの交流が始まる。
ピーターは父親を亡くして以来、夢見る心を失い、子どもであることを失おうとしていた。
大人になり急ぐピーターの心を、バリは懸命に救おうとする。

 ピーターの母親シルビアを演じるのは「タイタニック」でヒロインを演じたケイト・ウィンスレット。
100年前のロンドンの劇場と着飾った人々、郊外の美しい自然と幻想的な劇中劇の舞台、シックな衣装、…それらを背景にして、ジョニー・デップとケイト・ウィンスレットの美貌に思い切り酔うのは心地よい。
バリとの交流の中で、子ども達はそれぞれに成長し、母シルビアもまたいつしかバリに強く惹かれていくのだが、それは恋に変わる一歩手前くらいの強い友情で留まっていて、ラブシーンらしきものは皆無だし思いを伝え合う台詞も無い。
それでも、バリとシルビアの間に生まれた信頼と思いやりの深さは、その時々の彼らの行動と静かに語り合うシーンに表現されていて、そういった柔らかい描かれ方が気品ある映像にぴったりとけ込んでいるように思う。
中でも、バリがシルビアに約束どおり"ネバーランド"を見せる場面は、夢を見ることの出来る大人同士の最高の愛のシーンだ。

 ピーターの悲しみは、しっかりと受け止められる場所を得て初めて涙とともに流れ出して行った。
そうして作り上げられていった「ピーターパン」の物語は、子ども達だけでなく、演劇に対する凝り固まった考えを持つ大人達の心も、社交界の名士であるシルビアの母の頑なさも、何もかもを溶かして行く。
それから100年、この物語は色々な国で、たくさんの大人や子どもの心に何かを残してきたのだろう。

 興行主のチャールズ・フローマン役を、かつて「フック」でフック船長役をやったダスティン・ホフマンが演じている。
また、劇中劇を演じる役者達も独特の雰囲気で笑いのシーンを提供している。
食事中に突然インディアンの格好をして訪ねてきて、シルビアの母にひんしゅくを買うジョニー・デップも、なかなか素敵で笑えた。

衣装デザインのアレクサンドラ・バーンは、もうすぐ公開される「オペラ座の怪人」も手がけているそうである。

(2004/12/20)
2005年1月15日(土)より、日比谷映画他 全国東宝洋画系でロードショー

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=====================ちょっとだけネタバレ=====================















 ラストシーンは、バリとピーターが初めて出会った、あの公園のベンチ。
あの時ベンチの下にいた心を閉ざしたピーターと、ラストにバリの胸の中で心を開いているピーターが対照的です。

 大人にも子どもにも、不意に襲ってくる大切な人との別れ、誰にでもいつ訪れるかしれない喪失、それを私たちはどんなふうに乗り越えていったらいいのか…このベンチでバリが教えてくれます。


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