誰も知らない
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監督 ・脚本・編集 : 是枝 裕和
出演 : 柳楽 優弥  北浦 愛  木村 飛影  清水 萌々子  韓 英恵  YOU

 柳楽優弥クンがカンヌ映画祭で主演男優賞を受賞したことで話題になったこの映画、前評判通り確かに彼の目力は凄かった。

ある日突然母親に置き去りにされた、4人の子供達…それぞれの子役の、それぞれに印象的な目が脳裏に焼き付いている。
これは、演技だろうか…、と思うくらい自然で、まるでドキュメンタリーのようだった。

 この映画に善悪の裁きをする意図はまったく無い。
子ども達を置き去りにした母親(YOU)は、親になるには精神年齢の低すぎた、可愛い女性である。
そして、それなりに…それなりにではあるが、子どもに愛情を注いでいる。
一方で長男、明(柳楽優弥)は、そんな母親を持った子どもがする当たり前の反応をしている。
母の無邪気さも、母の涙も、母の恋も、母のすべてをまるごと包み込もうとしてしまう。
これは確かに立場の逆転だけれど、親という絶対的な存在の前で、子どもの価値観は親を中心に決まっていくのだ。
親を受け入れられなければ、幼い子どもは自分を否定する以外にないからだ。
「私は幸せになっちゃいけないの!?」
12歳の息子に何のためらいもなく訴える母親に、明は返す言葉が無い。
 
 年齢を遙かに超えた量の重荷を背負い疲れきった明が、弟妹たちにキレてしまう最初で最後の場面、一番小さい妹ゆき(清水萌々子)が悲しそうな、不思議そうな目で黙って兄を見つめる表情が胸を締め付ける。
子供達の生活がどんどん悲惨な状況になっていることなど、まるで思い至らない母親。
母から送られてきた現金書留の封筒に入っている、明宛の短いメモには、「頼りにしてるわよ」という脳天気な文字。
それを見た明の無表情さが、余計痛々しい。

素材の良さを生かすには、あえてそこに手を加えないという監督の思いだろうか、子ども達の持つ魅力を最大限に引き出すことにエネルギーが注がれ、そして成功している。
彼等の持つ、生命力、無邪気さ、美しさ、可愛い愚かさ、健気さ…。
これが、この監督の力、才能だろうと思う。
これだけ、「泣かせる」材料を目の前にして、決してそっちの方向に傾いていかない頑固なまでの上品さに、是枝監督の強い主張を感じる。
けれど、その押さえた描写とは対照的に、見終えたあとに引きずるものは嫌になるくらい重かった。

酷い母親、可哀想な子どもたち…その姿に思いきり泣いて、すっきりして終わり…。
というわけにはいきません。

 音楽はゴンチチとタテタカコ。
タテタカコは、コンビニの店員さんとして出演もしており、いい味を出しています。
子供達に手を貸す数少ない大人の一人です。


=============================以後ネタバレ=================================














 この映画では、誰も涙を見せません。 
このストーリーが実話を元にしているということは有名ですが、元になった事件というのはとても悲惨なものでした。
それを綺麗事に描きすぎでは…という見解もあるかもしれませんが、ここでは、ひたすら現実を受け入れ生きようとする子どもの力強さにスポットをあて、そうすることで彼等のもうひとつの真実に迫ろうとしたように思います。
子どもとはそういうものだから、だからこそ守られるべきなのだと訴えているのでしょう。
もしもこの事件に興味がある方はこちらのサイトで詳細がわかりますが、映画を見る予定の方はどちらを先に見るか微妙なところだと思います。          
         →巣鴨子ども置き去り事件
2004/9/1


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