おくりびと
http://www.okuribito.jp/
監督: 滝田洋二郎
脚本: 小山薫堂
音楽: 久石譲
 「おくりびと」オリジナルサウンドトラック
出演: 本木雅弘 (小林大悟)
 広末涼子 (小林美香)
 山崎努 (佐々木生栄)
 余貴美子 (上村百合子)
 吉行和子 (山下ツヤ子)   笹野高史 (平田正吉)  杉本哲太   峰岸徹
(2008 日本)

 とにかく色々な意味でバランスの取れた映画だなぁと思う。
ユーモアと感動、大胆さと繊細さ、生と死、新しいものと古いもの、それら対極にあるものを作品の中に込め、同じ画面に並べてみせる監督の意図を随所に感じる。

冒頭、主人公大悟が納棺師という特殊な仕事に就くまでのいきさつを(実は笑いことではない状況ではあるのだが)、コミカルに描いていて、そのエピソードの面白さにのっけから映画館に笑いが起こる。
けれどその先には、この仕事をすることへの彼自身の抵抗や戸惑い、周囲の偏見などさまざまな深刻な問題があり、大悟はそれと向き合うこととなる。
そしてもっと先には、この仕事に深い意味を見出していく頼もしい彼の姿があるのだ。

そのあたりの経緯の描き方は、お決まりのやり方ではあるのだけど、やはり脚本の上手さを感じた。
また、監督の作り出す映像と久石譲の作り出す美しい音楽との調和も見事だと思う。。
山形の風景を背にチェロを弾く大悟の姿、そこに、納棺師としての仕事を淡々とこなしながら、この職業に真摯に向き合う彼の姿がはさまれ重なり合っていく、その一切セリフの無いシーンが素晴らしい。
美しいチェロの調べとだんだん熟練していく納棺師としての大悟の所作の美しさに胸が締め付けられるような感動を覚える映像だ。

 物語の最も重要な登場人物であるベテラン納棺師の佐々木役を、山崎務が演じる。
魅力的でユニークで人間的な深さを感じるキャラクターの役作りを、さらっとやってのけているように見えるのはさすがだと思える。
佐々木の発する言葉の一つ一つがとてもユーモラスで、同時に重いものであったり、深い意味を秘めていたりする。
吉行和子や笹野高史など、やはりベテランが重要な脇役を演じていて、作品のグレードを上げ重厚なものにしている。
また彼らの話す山形の方言が暖かい。
が、一方で大悟の幼馴染が納棺師の仕事を忌み嫌って発する突き放すような言葉もまた山形の方言で語られるのである。

 最後、エンドロールとともに大悟による納棺の儀式のすべてが映し出される。
インタビューなどで大悟役の本木雅弘が語っているように、納棺の儀式には茶道の所作に通じるものがある。
無駄の無い動き、人間の尊厳を守る愛情に満ちた動きは美しい。
故人の人生への敬意と遺族への思いやりが表現された動きだ。

自分の愛する人が死んだら、こんなふうに送りたい。
自分が死んだら、こんな納棺師に新たな旅立ちを手伝ってほしい。
そんな気持ちになる。

この作品を作るきっかけになった一つに主演の本木雅弘と「納棺夫日記」 (文春文庫)という本の出会いがあるようだ。
この本についてはクレジットにもオフィシャルサイトにも特に名前が挙げられていないのだが、作品の予告にも使われているシーン…大悟の職業を知った妻美香が、彼に「けがらわしい」と叫ぶシーン…はこの本の作者であり、納棺師である青木新門さんの実話だそうである。
これからご覧になる方は、こちらのインタビューも併せてごらんいただくと、より深く映画を楽しめるのではないかと思います。


2008/10/1


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