パフューム 〜ある人殺しの物語
PERFUME : THE STORY OF A MURDERER
http://perfume.gyao.jp/index.html
http://www.parfum.film.de/
監督 : トム・ティクヴァ
原作 : パトリック・ジュースキント
   香水―ある人殺しの物語
脚本 : トム・ティクヴァ
    アンドリュー・バーキン
    ベルント・アイヒンガー
音楽 : トム・ティクヴァ
    ジョニー・クリメック
    ラインホルト・ハイル
    映画「パフューム」 オリジナル・サウンドトラック
演奏 : ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
指揮 : サイモン・ラトル
出演 : ベン・ウィショー(ジャン=バティスト・グルヌイユ)
    ダスティン・ホフマン (ジュゼッペ・バルディーニ)
    アラン・リックマン (リシ)
    レイチェル・ハード=ウッド (ローラ)
    アンドレス・エレーラ,サイモン・チャンドラー
        デヴィッド・コールダー, カロリーネ・ヘルフルト
(2007 ドイツ,フランス,スペイン)

 「ラン・ローラ・ラン」の監督トム・ティクヴァが、この原作をどうやって映像化するのだろう…それにとても興味があった。
予告ではラスト近くの一場面である、750人のエキストラによる全裸シーンや主人公の異常な行動がとりわけセンセーショナルに扱われていて、妙な先入観を持ってしまう人が多いのではないかと、観る前に少しだけ憂鬱になっていた。

 超人的な嗅覚をもって生まれた主人公のグルヌイユ役に、「ブライアン・ジョーンズ ストーンズから消えた男」でキース・リチャーズ役を演じたベン・ウィショーが、本当にぴったりとはまっていた。
時代背景は18世紀のパリ。
様々な人々が行き交うパリの街並み、着飾った女性達の香水が香る表通りと、底辺の人々の生活する裏通り、そして悪臭の中で人々が騒然と行き交う魚市場。
グルヌイユの母はその市場で商いをしている最中に彼を産み落とし、グルヌイユはそのまま捨てられる。
魚の内臓や腐敗臭の中で、愛情と無縁のグルヌイユの人生が始まる。
 
 原作者パトリック・ジュースキントは今まで数々の映画化のオファーを断り続け、この作品に関しても映画製作のプロジェクトには一切関わらないという条件でようやくOKを出したそうだ。
しかしこの映画のスタッフは、小説の世界観と複雑な人物像を映像化する難題に果敢にチャレンジし、そしてここまで繊細に表現することに成功し、最初の二時間は文句なく素晴らしく、またベルリン・フィルが演奏する音楽が、それをさらに完璧なものにしていた。

…が、ラスト近くの約30分あの処刑場でのシーンから後はやはり違う。
ベン・ウィショーのキャラクターや演技をもってしても、どうしてもグルヌイユの複雑な心理は表現しきれないのだと思った。
全裸のエキストラ達が作り出す異常で信じがたい光景と、それによって浮き彫りにされるはずのグルヌイユの憎悪にまみれた圧倒的な絶望感。
彼の繊細な心の流れは、監督の意図に反して背景のインパクトと現実離れした滑稽さに飲み込まれてしまっているように感じる。

小説の世界では、映像は読者の頭の中に、読者の数だけある。
小説家が、その卓越した表現力を駆使して伝達した情報は、そこから先、読者の想像力と感性に委ねられる。
だからこそ成り立つ。
だかこそ実感できるグルヌイユの深い孤独。
ここから先ラストまでは、映像化してはならないシーンなのかもしれない。

ただ、この場面をはじめとし言葉を映像化する作業にスタッフはどれだけのエネルギーを費やしたのか、撮影の苦心を考えれば考えるほど、よくぞここまで…という気持ちになる。
製作のベルント・アイヒンガー、スタッフ達がこの小説を愛した気持ちも充分に伝わってくる。
私も、この小説のファンのはしくれとして彼等に心から拍手を送りたいと思う。

原作者パトリック・ジュースキントも、そうであってくれればいいな…と、願いつつ…。

 
(2007/3/31)
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