息子の部屋
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監督 ナンニ・モレッティ
出演 ナンニ・モレッティ
 ラウラ・モランテ、 ジャスミン・トリンカ
 ジュゼッペ・サンフェリーチェ
(2001 伊)


  2001年のカンヌ映画祭で、パルムドールを受賞したイタリア映画。
イタリア映画というのは、私が描いているイタリアという国のイメージとずいぶん違う。
明るくてアツいアクティブな国民性をつい、想像してしまうが、こんな映画を好むのもイタリアのもう一つの顔なんだろうか。
ハリウッドの映画と比べて、あまりにも淡々として、ある意味盛り上がりもエキサイティングな展開もない退屈な映画だ。
ただ、私はこんな静かに流れて静かに終わり、そのくせ心にずっしりと何かを残すような映画がけっこう好きなのだ。

 監督・主演の、ナンニ・モレッティも、ちょっと渋い普通のおじさんで、妻、娘、息子、を演じる他の出演者も、皆、うっとりするような美形というタイプの俳優さん達じゃない。けれどチャーミングだ。

 ストーリーは、ある精神分析医ジョバンニの息子アンドレアが、ある日事故で死んでしまい、残された家族(主人公、妻、娘)がそれぞれにその悲しみとつき合っていくという地味な話だ。決して、悲しみを乗り越える・・・というたいそうなのでもなく、ただ、それぞれの後悔と思い出と喪失感の中で日々を暮らしていく。

 父ジョバンニには、息子の死に関して、後悔にさいなまれ続ける理由があった。
事故が起きたその日、彼は息子アンドレアとジョギングの約束をしていたのだが、急な仕事が入り、そちらを優先してしまう。
予定の無くなったアンドレアは、急遽友人とダイビングに行き、そこで事故が起きてしまったのだ。
 この残酷な結末に、ジョバンニは精神分析医の仕事を続ける事が出来ないほど精神の安定を欠いてしまう。

 ある日、死んだ息子宛に女の子から手紙が届く。
それを読んだ家族は、息子にガールフレンドがいた事を初めて知った。
アンドレアの死を知ったガールフレンドは、一枚の写真を持って家に訪ねて来る。
 それは、アンドレアが自分の部屋の中でニコニコ笑っている写真だった。
なつかしい息子の顔だけれど、家族が知らないアンドレアの別の顔でもある。
そのことをきっかけに、悲しみのあまり立ちつくしていた家族は、少しずつだけど、前に向かって進み始めるのだ。

 
 人は、悲しみから立ち上がるとき、とてもとても時間がかかるものだ。
ゆっくりゆっくり、重い体を引きずって、手すりに捕まりながら階段を昇るみたいに。
膝を抱えてうずくまっていた場所からふと外に目をやり、ああ、こんな時にも世界は普通に回っているのだと気づき、ゆっくりと外に這い出し、そして一歩を踏み出す。
そんな風にして、みんな受け入れがたい事実を受け入れていくのが現実じゃないだろうか。

 それでいいんだよ、みんなそうなんだから。
ゆっくりでいいんだよ。
この監督はそんな風に優しい目でこの家族を描いていると思う。

それにしてもこの映画のキャッチコピー
「生きているときは開けては行けないドアでした」
ってなによ。
全然違う事想像しちゃいますよね。


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