ヴィレッジ
http://www.movies.co.jp/village/index01.html



監督・脚本 : M・ナイト・シャマラン
出演 : ブライス・ダラス・ハワード ホアキン・フェニックス エイドリアン・ブロディ
 ウィリアム・ハート シガニー・ウィーヴァー
音楽 : ジエームズ・ニュートン・ハワード
(2004 米)

 「シックスセンス」「サイン」のM・ナイト・シャマラン監督の作品。
舞台は森に囲まれた小さな村。
そこは、いくつものタブーによって外界と遮断されたコミュニティー。
「何故? どうして?」の謎に、どっぷりと浸ることが出来れば、これはもう上質な大人のおとぎ話として楽しめる映画だと思う。

 一番最初に出てくる疑問は『赤』。
楽しそうにダンスをしながらポーチの掃除をしている若い女性二人が、赤い花が咲いているのを見つけると急に表情を硬くして駆け寄り、花を摘み取ってあわてて土に埋めてしまう。…何故?
村と森の境界は『黄色』い印で仕切られ、住人は決してその境界を越えない。…何故?
この村はそういういくつもの掟によって、森の「彼ら」と微妙なバランスを保っているらしいのだ。

 この隔絶された村には、文明も金銭も、それによる欲望も腐敗も入りこむことがない。
そうして長年「無垢」であることが保たれて来た。
この映画の重要なキーワードの1つ、「無垢」。
その「無垢」の象徴として出てくるのが、知的障害をもった青年ノアではないだろうか。
彼は主人公のアイヴィーを純粋に愛し、その一途さ故に罪を犯す。
住人が最も忌み嫌う「犯罪」もまた、大切なもう一つのキーワードだ。
この村に住む第一世代が最も大切にする「無垢」と最も恐れる「犯罪」が、ノアの中に共存する。
ノア役のエイドリアン・ブロディは「戦場のピアニスト」でアカデミー主演男優賞を受賞した俳優だが、ここでは全くの別人。
ピュアでありながらミステリアスな、不気味なノア…になりきっていて、素晴らしい存在感だった。
彼の笑顔は天使のように優しく、なのに一瞬、狂気と邪悪さを垣間見せる。

 そして、最大のキーワードは「愛」。
それは主人公アイヴィーのルシアス(ホアキン・フェニックス)に対する力強い愛である。
アイヴィー役のブライス・ダラス・ハワードは今作が本格的デビュー作であることを感じさせない迫力。
彼女の表現力は、アイヴィーの内面の強さに裏付けされた美しさとか、真実を見通す洞察力のある目を、見事に演じていたと思う。
また村の第一世代を「エイリアン」のジカニー・ウィーバー、「蜘蛛女のキス」のウィリアム・ハートなどの名優が固めていて、その名演技がファンタジックなストーリーにリアリティを加えている。
この設定が嘘くさいおとぎ話にならなかったのは、役者たちの力も大きいのではないかと思う。

また、村の建築物はアメリカの画家アンドリュー・ワイエスの作品に影響を受けたデザインだそうだが、独特の雰囲気を作りだしていて、そこにジェームズ・ニュートン・ハワードの音楽がぴったりと溶け込んでいた。
(2004/10/1)



==============ここからネタバレ(絶対に観る予定の方は読まないで下さい)================














 第一世代が望んだ「無垢」な世界は、1つの理想ではあるがとても不安定なユートピアであると思う。
しかし彼等は人間の欲が生み出す「犯罪」の苦しみから逃れるために、「無垢」の世界を作り上げた。
第一世代にとって、その2つは対極にある。
しかし、ノアの中に「無垢」と「犯罪」が共存するように、すべての人の心の中にも、人の住む世界にも、それは共存するものだ。どちらか1つを完全に排除しようとすれば、どこかにひずみが出来るものなのではないだろうか。
ノアの死は、そのひずみの象徴だったような気がする。

盲目というハンディキャップを負ったアイヴィーが誰よりも勇敢で聡明であったように、不幸の中に幸福が、弱さの中に強さがある、それがリアルなんじゃないか。
そして「愛」だけが一見矛盾したその混沌を、すべて抱き寄せてしまう大きさを持っている…、そう監督は主張したのかもしれない。
それほど愛は強いもの、何もかも包んで、何もかも乗り越えてしまうもの。

「愛」の力を手にしたアイヴィーとルシアスは、これからこの村を、第2世代を、リードして行くだろう。
そういう希望を確実に感じさせて終わる、ちょっと変わった、記憶に残るラストだった。


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