白バラの祈り ゾフィー・ショル、最期の日々
SOPHIE SCHOLL - DIE LETZTEN TAGE
http://www.shirobaranoinori.com  (日本語)
http://www.sophiescholl-derfilm.de/  (ドイツ語)
監督 : マルク・ローテムント
脚本 : フレート・ブライナースドーファー
音楽 : ラインホルト・ハイル
    ジョニー・クリメック
出演 : ユリア・イェンチ (ゾフィー・ショル)
 アレクサンダー・ヘルト
    (ロベルト・モーア尋問官)
 ファビアン・ヒンリヒス (ハンス・ショル)
 ヨハンナ・ガストドロフ (エルゼ・ゲーベル)
 アンドレ・ヘンニック (ローラント・フライスラー裁判官)
 フロリアン・シュテッター (クリストフ・プローブスト)
 ヨハネス・シューム (アレクサンダー・シュモレル)
 マキシミリアン・ブリュックナー (ヴィリ・グラーフ)
 リリー・ユング (ギゼラ・シャーテリング)
 ユーグ・フーベ (ロベルト・ショル)
 ペトラ・ケリング (マグダレーナ・ショル)
 フランツ・シュターバー (ヴェルナー・ショル)
ドイツ (2005)

  1943年、ヒトラー政権下のドイツで、ナチスに抵抗する運動を行なっていた“白バラ”という学生地下組織があった。
彼等の中のただ一人の女性活動家ゾフィー・ショル(Sophia Magdalena Scholl)とその兄ハンスが、ある日大学の構内でビラを配ったことが発覚し、その場でゲシュタポに拘束される。
1990年になって、東ドイツでその時の尋問記録が発見され、この映画の監督マルク・ローテムントはそれを手にする。
その記録と現在もまだ生存する白バラのメンバー、当時の関係者への取材をもとにローテムント監督はこの映画を撮り、2005年ベルリン国際映画祭銀熊賞をはじめ多くの賞を獲得している。

ゾフィーを演じるユリア・イェンチは、「ベルリン僕らの革命」に出演していた女優さんだが、この映画では彼女の演技がさらにグレードアップしていて、とくに取り調べのシーンにおける長時間にわたる尋問官とのやりとりの場面は思わず身体に力が入ってしまうほどの緊張感が続く。
両者の言葉のやりとりをただ淡々と交互に移し続けるシーンだが、ロベルト・モーア尋問官役のアレクサンダー・ヘルトのセリフの裏側に隠された表情の演技も素晴らしい。
実際のモーア尋問官は、ゾフィーに同情的で酷い待遇をすることはなかったらしい。
映画の中でも、姿勢を正し毅然とした態度で正論を述べるゾフィーに、モーアもさらに厳しい質問を繰り返すのだが、内心彼女を救いたいと願っている彼は、ときおり微かに不安や動揺やさらには悲しみのような表情すら垣間見せる。
それは、法、秩序を拠り所に論破しようとするモーアに対し、ゾフィーが、『良心』という言葉を口にしたときだ。
彼女の強さはまさに、その『良心』にある。

粗暴な男性役人達の中にあって、どちらかと言えば小柄に見えるユリア・インチが演じるゾフィーが、背筋を伸ばし彼等の唯一の武器である言葉を用いて、ひるまずに振る舞う態度は21歳の女子大学生とはほど遠い精神力に見える。
ただ、部屋に戻った彼女がベッドの中でも祈り、空を見ても祈るその姿は、もうぎりぎりの崖っぷちの所で必死に恐怖と戦っていることをひしひしと感じさせ、その恐れの大きさを察するに胸がいっぱいになる。
後半クライマックスの裁判所でのシーンからは、怒りと悔しさで涙が止まらない。
裁判とは名ばかりの裁判長の発する感情的な怒号と侮辱的な言葉、そして何一つ弁護することのない形だけの国選弁護人。

映画の最後エンドロールと共に実際のゾフィーや兄、友人の写真が映る。
その写真の彼等はまさに、青春を楽しんでいる生き生きとした大学生の姿だ。
確かに写真は古ぼけているけれど、60年後の現代の若者の姿と何も変わらない。

私達人間はたびたび過ちを犯す。
だけど、過去から学ぶことでそれは最小限にくい止めることが出来る。
白バラのメンバーや当時の生き証人が高齢になった現在、このような、映画という形で記録を残すことは、より多くの人の目に触れ心を動かすことが出来るという点でとても意義のあることだと思う。
そしてこの作品に出会い観客となることができた私達は、この史実から得たもの、あの理不尽で卑劣きわまりない裁判を忘れてはならないと感じる。

1943年、私達の国も同様に戦時下にあった。
『良心』…とはどんな国でも社会でも、変わらず普遍的に自らの指針となる強い軸だ。
それは度々国益と矛盾したりするし、ある特殊な状況下においては法と相反する結論を導き出す。
私達はこれからも、それらの間で葛藤しながら決断しなければならないことにぶつかるかもしれない。
そんな時こそ、自らの良心の声に耳を塞ぐことなく、過ちに気づいたならば立ち止まり、例えそれが現在までの自分を否定することであっても、そこから引き返す勇気を持たなければ…と思いながら、あらためてゾフィーの短い人生に拍手を送りたい気持ちになった。

 

白バラの庭 …組織の歴史や人物紹介、関連書籍などとても詳しいサイトをみつけました。

(2007/4/12)
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