ものすごくうるさくて、ありえないほど近い
Extremely Loud & Incredibly Close
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監督 : スティーヴン・ダルドリー    
原作 : ジョナサン・サフラン・フォア
音楽 : アレクサンドル・デプラ

出演 : トム・ハンクス (トーマス・シェル)
サンドラ・ブロック(リンダ・シェル)
トーマス・ホーン(オスカー・シェル)
マックス・フォン・シドー(賃借人)
ヴァイオラ・デイヴィス(アビー・ブラック)
ジェフリー・ライト(ウィリアム・ブラック)
ゾー・コールドウェル(オスカーの祖母)

(2012 米)



愛する家族を失うことはほとんどの人が経験しなければならないあまりにも残酷な絶望だ。
けれど、ひとりひとりの事情や立場や失った人との関係性・・・それが複雑に絡み合って、その絶望は一つとして同じものはない。
オスカー少年にとっても、その喪失感は彼独自のものであって、かつて最高の理解者である父を9.11同時多発テロにより失って、初めて孤独の中で戦わなければならない試練になるのだ。

彼にはアスペルガー症候群の疑いがあり、聡明だけれど他人との関係性においては少し通常とは違うキャラクターを持っている。
それ故に生前父親(トム・ハンクスが演じていて、ぴったりのキャスティング)は『探検』というツールを使って趣向を凝らした楽しい遊びを考えてはオスカーを見守り育んでいた。
そんな父の死後1年間をオスカーは『太陽が消滅してからの8分間』に例えている。
"If the sun were to explode, you wouldn't even know about it for 8 minutes because thats how long it takes for light to travel to us."
彼はモノローグでこう言っている。

彼にとっての父がまるで太陽のような存在だったこともあるのだろうが、地球との距離故に光が届くまでかかる8分間、その8分の終りに逃れならない恐怖を予感する言葉だ。
"For eight minutes the world would still be bright and it would still feel warm."
大切な人がこの世から消えてその存在した痕跡消えていく恐怖、父の死を真っ向から受け止めなければならないその時が来る恐怖。

そんな矢先にオスカーが父のクロゼットで見つけた鍵。
何の鍵なのか、何を開けるのか、開けたらそこには何があるのか・・・。
オスカーは苦しみを解決してくれる何かがそこにはあると信じる。
そういうすがるような思いで彼の『探検』が始まるのだ。
その鍵が入っていた小さな封筒には、ただ「black」とだけ書いてあった。
それを頼りに、人との関わりが不得意な彼がよりによって選んだ『探検』は、ニューヨーク中のブラックさんをしらみ潰しに訪ね歩くという方法だった。

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『探検』を終えた彼が、最後の方のシーンで母親にこんなことを語っている。
『みんな大切な人を失ってる。』
ニューヨークのブラックさんたちの多くは、何らかの喪失を乗り越えて彼らなりに生き続けていた。
まるで仏教の経典にあるキサゴータミーの話のようだと思った。
待ちに待ったかわいい赤ちゃんを授かり幸福の絶頂にいたキサゴータミーという母親が、その子をあっけなく病気で亡くしてしまう。
その死が信じられず亡骸を抱いて街中を歩きまわり続ける。
そしてついにお釈迦様に救いを求め赤ちゃんを生き返らせて欲しいと願う。
お釈迦様は「今までに一度も死んだ人のいない家から芥子の実を5粒貰っておいで」という。そんな簡単な事で赤ちゃんが生き返るなら・・・と『死んだ人がいない家』を訪ね歩くのだが、そんな家は見つからない。
そして1000件目の家で、誰もが喪失を乗り越えて生きているのだと気づき、最愛の我が子を埋葬する決意をするというお話だ。


大きな喪失感を乗り越えるには時間がかかる。
歩きまわって、探しまわって、遠回りをし、時間をかけなければならないこともある。
亡くした人の様々な思い出を前向きに語り、一歩を踏み出せるようになるまでにどうしても必要なこと・・・それはひとそれぞれだ。
バカバカしくもあり、滑稽でもあるけれど、決して無駄ではない重要な時間なのだ。


喪失をテーマにした好きな映画には、『息子の部屋』『ブラウンバニー』など色々あった。
どれも見終えたあとに一歩を踏み出す勇気をくれる。
それはやはり、こんな理不尽で耐え難い思いをしているのは自分だけではないんだ・・・という事実に心から気づく事が出来るからだろう。

私も大切な人を亡くしたことがある。
その喪失感は多分一生ゼロにはならないんだろう。
だからこそ、人は優しくなっていけるし、生きることを大切に感じられるようになるんだと思う。




=========以下ネタバレです=========









オスカーの母が最後の方のシーンで、実はずっとオスカーの『探検』を知っていて見守っていたことを息子に打ち明ける。
これは感動的な場面ではあるけれど、私はちょっと蛇足のような気がした。
なんとなく取ってつけたような、真実味に欠ける展開が気になったのだ。
が、それはサンドラ・ブロックの演技力でなんとかクリアしているけれど・・・。

演技力といえばオスカー役のトーマス・ホンもすごい。
彼はなんとこれが初の演技体験だそうだ。
監督がテレビのクイズ番組に出ているトーマスを見て出演交渉したのだそうだ。
そのクイズ番組で優勝し天才少年と讃えられたトーマスは、センシティヴで聡明なオスカー役にピッタリだった。



 


(2013/5)
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